異世界の機士・黒のヴィダリオン 

紀之

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1章 機士の章

第4話 脅威のバイオクレスタ―・地球氷河期計画①

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 2月もあと数日となった、剣王町旧市街のとある空き家

ここは以前より幽霊屋敷として名高いが、今日また一つこの不名誉な箔が一つ増える事態が起こっていた。

『私が何を言いたいか分かっているのだろうな』

盃を咥えた悪魔の像の発する怒気の前で平伏する3人の邪神官ザパト・プレハ・ガルウ

「この町の混乱は確実に広がっております。今一押しかと」

『馬鹿者共め!!たかが1人の機士に何を手間取っている!?大した混乱を起こしていない事はこの盃に溜まった暗黒の滴の量がそれを証明しておるわ!この次元の侵略にそこまで手を焼くというのなら別の者に任せるが良いか?』

ザパトの申し開きを彼の主は一蹴する。

「お待ちください、我が主よ。この町どころかこの次元全てを最大規模の混乱を陥れる作戦が目下進行中でございます。増援の件はその結果次第でという事でなにとぞなにとぞご容赦のほどを・・・・」

プレハの言葉に一瞬主の怒りが和らいだかに見えた。

『よかろう。だが忘れるな。これ以上ワシを失望させることがお前達にどんな事態をもたらすかという事を。必ずワシを喜ばせて見せよ』

像からの声は去り際に稲妻と火炎を部屋中に迸らせて消えた。

「主のお怒りがあそこまで激しかったことはなかったな。いよいよ我らも後がないが・・・・」

「それでさくせんってなんだ?」

「これだ」

プレハはPCのニュースサイトを見せる。そこには明日行われる大鷲航空の新型旅客機のお披露目会の記事が載っていた。

「それを襲撃するのか?だがそれは今までと変わらん気がするが?」

「フフフ、これを見ろ」

プレハの取り出した二重螺旋状の物体が巻き付いたクレストはザパトやガルウの見た事のない物だった。

「それは?」

「バイオクレストと名付けた。この前ガルウに渡したこの次元のクレストの特性を暗黒の滴の力で更に強化・発展させたのだ。今回はこのバイオクレスタ―第一号のお披露目にぜひ2人にも付き合ってもらいたい」

「バイオクレスタ―?良かろう。具体的な計画を聞かせてもらおうか」

「おれもおれも」

「フフフ、それはな・・・・」

プレハは自身の立案した恐るべき計画を話すと2人も驚き、そして3人で笑いあう。そしてこの邪悪な計画の実行すべく空港へと姿を消した。

翌日

剣王町新市街・星川家

2月の快晴だがひっきりなしに吹き付ける寒風に震えながら星川勇騎は庭の草むしりをしていた。

家の中から掃除機の音がひっきりなしに響いてくる。

(あーあ。新型旅客機セレスティアブリスのイベント行きたかったなあ)

つい一週間ほど前の事、あの分限広人がクラス全員に大鷲航空の新型旅客機セレスティアブリスのイベントチケットを渡してきたのだった。

「実はあの後クラス全員に渡さんかとダディに怒られてね。という訳で僕個人は不本意ながら君達男どもも招待するよ」

「何か引っかかる物言いだが有難く貰っておいてやるよ。機内食豪華なのが出るんだろ?」

男子代表として新井陸がぶっきらぼうに返す。

「まあね」

「ヨッシャ!一体何が出るんだ?キャビアとかフォアグラとか?」

「あら、勇騎君は駄目よ。家の手伝いがあるから」

「何・・・・だと!?いつ俺がそんな事やるって言ったんだ?」

「おば様から言われてるのよ。今勇騎君のお父様が海外出張に行っていて4月末まで帰ってこられないから、おば様も付いて行っているでしょ?その間息子と家の事よろしくって言われているのよ。その日は私と一緒に家の大掃除よ」

「そうだった。嫌すぎて記憶から消していたんだった。なんで俺は忘れていてお前は覚えているんだよ!?」

「どうせそんな事だろうと思った。だから私が代わりに覚えているの!いい?当日はちゃんと家にいるのよ!?」

勇騎の幼馴染の金雀枝杏樹の有無を言わさぬ決定で彼はクラスの男子で唯一の不参加となったのだった。

「あ~疲れた。こんなもんでいいだろ。」

勇騎20ℓのゴミ袋一杯に入った雑草を見て縁側に腰を下ろす。

「お疲れ様、勇騎君。これでも飲んで一息ついて」

杏樹がカップに暖かいほうじ茶を差し出すと隣に座る。

「ありがと。あのさ、色々と悪かったな。散々文句言って。感謝するのはこっちの方だってのに。杏樹はさ、クラスの奴らと一緒に行かなくて良かったのか?」

「私は・・・勇騎君と一緒にこうしている方が好き」

「え?」

「ち、違うのよ!?あんまり飛行機とか私興味ないから・・・」

「ま、まあそうだよな!メカ好きって大体男だもんな。クラスの女子にもそういう趣味の奴もいないし」

(何を慌ててるんだ?)

お互い心の中で同じ事を思いつつ、何となく気まずくなって会話が途切れる。

「そ、そうだ!もうお昼だから何か作るね。チャーハン好きでしょう?」

「あ、ああ。なんか手伝おうか?」

「いいの良いの。家主さんは座って待っていて」

どたばたと台所へ駆けて行く杏樹。

「行っちまった。まあいいか。今度お礼になんかスイーツでも贈ろう。さて、そうと決まればなんか参考になるのはないかな?」

こういう事に詳しくない勇騎は居間に入るとTVを点ける。

TVでは丁度例の新型旅客機のお披露目式の中継をしていた。

『ご覧ください。ここ成田空港では大鷲航空の最新型エコジェット旅客機セレスティアブリスを一目見ようと大勢の方が空港に詰め掛けています。今日はこの後外観を間近で見られるイベントが、そして極限られた方々の為の試験飛行が行われる予定です。では大鷲航空会長の高麦洋一郎さんにお話しを窺いたいと思います』

ここでカメラが60代後半から70代くらいの禿頭の優しそうな男性へと向けられる。この高麦氏は一技術者から巨大企業の会長まで上り詰めた人物として有名で勇騎の父も彼の信奉者の1人だった。

『はい。この度大鷲航空が開発しました新型旅客機セレスティアブリスは全長75m、全幅64m、全高19.2mのジャンボジェット並みの大型機です。当機は空の別荘というコンセプトのもと、先程ご紹介下さいましたように環境配慮の為の外壁をソーラー発電パネル兼用の新型部材、取り込んだ外気を推進力へと変える新型ジェットエンジンによる静音性と内部で水を生産する設備等を搭載しております。こういった新型部品はまだ小型化できていないので大型機となって130人ほどとジャンボの半数程度のお客様しか搭乗出来ない設計となってしまいましたのでゆくゆくはこれを小型化と旅客数の向上に努めていかねばと思っております。や、技術屋なもので長々と専門的な事をしゃべり過ぎました。今日は少しでも多くの方にこのセレスティアブリスの姿を見て頂けたらと思います』

レポーターは愛想笑いを返しカメラはワイドショーのスタジオへと切り替わる。勇騎はチャンネルを切り替えるがセレスティアブリスの中継をしている番組は1つしかなかった。それもさっきと殆ど同じ内容だ。

「チェッ、これじゃ分限の動画見るしかないのか」

分限広人は個人の動画配信を行っている。今日はこのセレスティアブリスの内部を公開するというので普段なら絶対に見ない彼のチャンネルを見る以外にない。

「でも凄いわよね、これ。地球に一番優しいジェット機っていってどこでも話題だもの」

杏樹がチャーハンの皿を2つお盆に載せて入ってくる。

「サンキュ、杏樹。そうなんだよ。おかげで分限の奴自分が作った訳でもないのに方々で自慢しまくってさ。でもデザインはカッコいいし人気出るんじゃないか」

『主、あの翼のある鉄の塊が飛ぶのですか?私にはにわかに信じられないのですが』

居間に吊るされたハンガーにかかった杏樹の制服からヴィダリオンの声がした。

「起きていたの、ヴィダリオン?異世界の人からしたらそうよね。でもこの世界の人の中にも同じような事を考えて
飛行機に乗らないって人も少なからずいるわ。私の祖母のようにね」

「だな。確か昔海外行った時わざわざ船で行ったんだよな。それはそれで羨ましいけど」

『私は主の祖母君のいう事がよくわかります』

「本人が全身機械で機械の馬に乗っているお前が言うのか」

「あはは。そう考えると不思議な感じ」


星川家での穏やかな時間。そして熱気渦巻く空港に3つの悪意の影が滑り込んだことなど誰も気が付かなかった。影は空港の建物の屋上へ音も無く降り立つ。

「寸分の狂いもない。時間通りだ。尤もそれは連中にとっては悲劇でしかないがな」

「はやくはやく、バイオクレスタ―みせてくれ」

「焦るな、ガルウ。あの鉄の鳥に人間共が乗り込むまで待て」

「ム、どうやら乗り込むらしい。我々も行くぞ」

プレハはバイオクレストを投擲、セレスティアブリスの垂直尾翼に描かれた隼のロゴの真ん中に見事に命中し、機体内部に吸収される。それを見届けると3人は黒煙のとなってセレスティアブリスへと向かって行った。
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