異世界の機士・黒のヴィダリオン 

紀之

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1章 機士の章

第1話 グータラ最強騎士登場①

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地球とは異なる次元にある異世界デウスウルト

ここには広大な海に大小様々な島々の点在している。

その中の最も大きな島にあらゆる次元で知らぬ者のいない聖械機士団本部がある。

機士団本部は島全体を要塞化し、その中央部にかつて存在した山を丸ごと改造した巨大な3つの塔に囲まれた本丸と呼ぶべき城を築いていた。

その城内は機士団創設以来の騒ぎとなっていた。

「遂に見つかったのか?我らの求める約束の次元が!?」

城内の広間にある大きな円卓の席に座る、白銀の鎧を着けた男の重々しい声が部屋中に響き渡る。その声に圧されて、入口正面の部屋の壁に賭けられた中央の槍とその左右を交差する2本の剣が描かれた団旗が翻る。円卓の席には彼以外には誰も座っていない。彼の座る椅子だけその背もたれの中央部に湾曲した楕円形の部品が設えてある。

「ハッ、その、どうもそれらしいとしか今の所分かっておらず・・・・」

円卓から少し離れた所に跪く白い鎧を着た男の声は震えていた。

「それで、監督官サージェントフィッツガルト、誰を派遣したのだ?席次2位のゴッドフロスト卿か?それとも席次3位の当代の勇者と名高いヴィダリオン卿かね?」

フィッツガルトと呼ばれた機士は答えない。ただガチャガチャと自身の鎧を震わせているだけである。

「席次8位のフリートライグ卿か?彼は先日プローツク遠征から帰ってきたばかりだったと思うが」

「フリートライグ卿は今執務中でございます・・・・・・」

フィッツガルトの言葉は今にも消え入りそうだ。

「では一体誰を派遣したのかね?話によると我らが仇敵マレフィクスの連中も嗅ぎつけ、そこからの観測から発見された次元と聞いたが・・・?」

「おっしゃる通りでございます、ザルツァフォン機士団長」

フィッツガルトはこれ以上はもはや耐えられないといった風に大きく体を震わせると堰を切った様に話だした。

「最初はヴィダリオン卿へ要請したのでございます。そのつもりだったのです。ところが手違いで従機士エクスワイアヴィダリオンを派遣してしまいまして・・・・」

「馬鹿者めが!!」

ザルツァフォンは部下の最後の言葉を遮るように怒鳴り散らす。

「よりによって最重要任務に同じ氏族とは言え我が機士団の勇者と問題児の黒機士を間違えるなぞ貴殿は一体いつからこの任についているのだ?奴は我が機士団始まって以来の問題児だぞ」

団長は平服するフィッツガルトに畳みかける様にまくしたてる

「我が機士団の掟により鎧の色は階級により厳しく決められておる」

「円卓に並ぶ貴顕衆が白銀、その下の正機士が白、その下の従機士以下は灰色となっております」

「だが奴の鎧の色はなんだ!?」

「黒でございます」

フィッツガルトはこれ以上ない位に体を小さくして掠れ声で上司へ返答を返す。

「いいかね、これが戦場での働きでの炎の煤の名残だとか名誉の戦傷によるものというのならまだ良い。だがあ奴の鎧の色は聞くところでは『鎧の整備が面倒だから』という理由でサビ止めを塗りたくった結果というではないか!さらに奴は正機士叙任さえ断っているというではないか!?」

「恐れながら叙任拒否に関しましては奴だけでなく若い機士全般に見られる嘆かわしい風潮でありますれば」

「その筆頭を送ったのだぞ、貴殿は!?どう責任を取るつもりかね?勇者ヴィダリオンはこの事で何と申して居る?」

「それが自分は魔海獣アクドゥ―共の殲滅に忙しく今は離れられないが、心配無用、この任務が奴にとっての大きな成長に繋がると鷹揚に構えておいででして・・・」

「では貴顕衆席次1位にして騎士団長として命じる。即刻奴を連れ戻せ。あんなぐうたら者が我ら聖械機士団の代表だと思われるのは後々の信用問題に関わる」

「次元の穴が次に開くのは早くとも1か月半後と技術部から聞いております」

ザルツァフォンは大きくため息をつく

「ではその時に間違いなく連れ戻せ。間違いのない様、今度は貴殿自身が行くのだぞ」

そう言うと彼はフィッツガルトを下がらせる。

(次元遠征を繰り返し、遂に伝説と思われていた我らが創造主のいる次元が見つかったのだ。連中奴・・・まさか知っているのではあるまいな)

ザルツァフォンの2つの眼はバケツを逆さにしたようなフルフェイスの兜の奥で底知れぬ野望で燃えていた。



地球・日本・剣王町12月31日夜

関東某県にあるこの町の中央に聳える剣王山。標高250m程のこの山には古来より空からやってきた武人が残していった剣がどこかに埋まっているという伝説があった。だがそんな伝説も現代では町おこしの材料くらいにしか思われていない。その宣伝効果なのか毎年のこの時期の山頂にある剣王神社は年末詣でにかなりの数の参拝客が来る。

短髪で活発な印象の剣ヶ峰学園高等部1年生、星川勇騎は幼馴染で生徒会書記にして神社の跡取り娘でもある、金雀枝杏樹えにしだあんじゅと共に生徒会業務の一環として、参拝客の案内役のボランティアをしていた。

勇騎自身はただの一般生徒だったがこの日運悪く生徒会唯一の男手である会長が風邪をひいて出られなくなった為そのヘルプを頼まれたのだ。

今彼は杏樹と共に山の頂上へと続く参道で参拝客の交通整理や案内をしていた。

「こんな寒い中皆良く来るよなあ。ここってそんなにご利益あったっけ?」

「それ、私に言う?学業成就、家内安全は間違いなしなんだから」

ゆるく後ろで結んだ黒髪を揺らし、誇らしそうに胸を張る杏樹。

「俺、成績上がった事ないんだけど?」

「そもそも勇騎君、成績アップの祈願をした事あるの?」

「ある訳ないだろ。俺は・・・」

突如聞こえてきた鳴き声に2人は話を中断する。ここは任せた、と勇騎は参道の階段を駆け下りていく。

「お~よしよし。転んじゃったのか。ボク、お父さんとお母さんは?」

5歳くらいの男の子の後ろから両親と思しき男女が駆け寄ってくる。

「すみません」

「いえいえ。これも仕事というかボランティアなんで。っと血が出てるな。立てそうか?」

泣きべそをかきながら首を横に振る男の子。

「分かった。じゃあ、俺が負ぶっていくよ。上にならバンソウコウとかもあるし」

そう言うと男の子を背負う。

「本当にすみません。お手間をおかけして」

(こういう非常時の為の男手なんだろうなあ。成宮会長も大変だよ)

大晦日の神社の手伝いというから掃除などがメインだと思っていたから正直気乗りはしていなかった。それでも最終的にOKしたのは幼馴染としての腐れ縁と杏樹の言う『特別手当』に惹かれたからだった。

(それに少しはカッコイイ所も見せたいしな)

幼馴染というフィルターを外しても金雀枝杏樹は美人であると胸を張って言える。不純な下心はあれど目の前の困っている人を助けたいという思いもまた彼の本心だった。要するに星川勇騎というのはどこにでもいる普通の男子高校生だった。

「勇騎君、その子もしかして?」

「ああ、ケガしてるんだ。ちょっと社務所に行ってくる」

「ここは任せて、行ってらっしゃい。頑張ってね」


長い階段を登り切りようやく社務所にたどり着いた勇騎は男の子をケガを治療し終えてその一家と別れると椅子に座ってフウと息をつく。真冬でも流石に重労働だ。汗で重く感じる少し長めの髪を感じながら、これならもっと髪を切っておいた方が良かったかなとも思う。

「ああ~疲れた。ちょっと休憩」

「なーにジジ臭いこと言っとるんじゃ。とは言えさっきはご苦労じゃったの」

奥から出てきた杏樹の祖母が熱いお茶を差し出す。

「ばっちゃんサンキュ。ま、見ちまったモンは見捨てられないしさ」

「そんな事よりそろそろ時間じゃないかえ?毎年恒例の」

そうだったと勇騎は飲みかけのお茶を置いて外に飛び出す。勇騎は10年前の大晦日に両親からはぐれた所を杏樹と出会い、以来2人が出会った鎮守の木の前で年末詣でをするようになったのだった。
鎮守の木は境内よりも更に上方にある。その大きな木の前に制服姿の杏樹が立っていた。

「ごめんごめん。休み過ぎた」

「気にしなくていいのに。それよりあの子大丈夫だった?」

「ああ、大した事なかったよ」

「良かった。あ、流れ星」

「おお、本当だ。それに2つも・・・・?」
願いごとをしようとした手を合わせ目をつぶる瞬間だった。はるか上空から2条の光の弧を描く流星の動きは星に詳しくない勇騎や杏樹でも明らかにおかしな動きを始めた。1つは赤、もう1つは青なのだが、よく見ると赤い方は青い方を追いかけている様にも見える軌道で空の彼方ではなく明らかにこちらに向かってきていた。

「ねえ、あれ、隕石じゃない?それもこっちに落ちてきてる!?」

追われている青い光はまるでフェイントでもかけるような動きをするとそのまま麓の剣王町へと落ちていく。一方の相手の動きに引っかかった赤い光は2人のいる場所に物凄いスピードで落下した。

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