異世界転生請負人・渡界人～知られざる異世界転生の裏側公開します

３章 候補者は４人

5 明かされた目的

異世界コンペ

この聞き慣れない言葉に渡以外の全員の頭に？マークが浮かんでいた事だろう。渡はこの状況を楽しんでいるらしく快活な調子で続ける。

「ま、順をおって説明しましょう。私は景勝さんが応募したというこの異世界案内の団体にコンタクトを取りました。そしてその団体のオブザーバーから今回の企画の意図を聞き出した上でこのコンペの意義を説いたのです」

「僕らに説明しなかったものをなぜ渡さんに話すのです？」

「それは勿論彼らの目論見が途方もなく巨大でかつ危険極まりないからです。景勝さんの話を聞いて僕が真っ先に想像した事態が起こっているのです」

「それは何でしょうか？確かに私らのような人間は世間一般の人間よりも向こう見ずであるという自覚は自分でもありますが・・・」

「そんな危険な事を兄さんにさせられないわ。私は反対です！」

「灯里・・・これはチャンスでもあるんだ。分かってくれ」

「ではその危険がどんなものかを聞いてから判断されても良いでしょう。先を続けても？」

兄妹のやり取りを見ながら渡は言った。兄の方は即座に、妹の方は渋々というように頷いた。

「まず、彼らの送り込もうとしている異世界は作り損ないなのです。そしてその異世界を創造したエネルギーの塊、これを持ち帰らせるのが彼らの計画なのです」

「造り損なった世界だって！？」

「そう、僕らが絵だの粘土細工を作って気に入らなかったら捨てるなり破くなりするように造り損なった異世界ができる事が稀にあるのです。大抵は造り直されるのですが、創造者の性格によってはそのまま放棄されてしまう事もあるのです。神様の力とて有限ですからね。その放棄された世界を作るエネルギーを流用して別の世界を創造しようとするのは自然な感情です。その為の探検隊を募集していた、という訳です」

「しかし、それとサバイバル訓練とどう関係が・・・・？」

「皆さんはこの地球が誕生した時の様子がどうであったかは学校の授業である程度習っているかと思います。つまり原生林や危険な現住生物の中を進んでいく事になるのですよ。どうもその異世界オーストラムと名付けられたその場所は地球の古生代のような環境になっているようです」

「しかしそうであると何故知らせなかったのでしょうか？やはり別の目的があるのでは？」

「灯里さんの指摘はもっともです。実の所連中もその事では大層揉めたらしいのです。ただ目的が途方もなさすぎるのでかえって事実を明かせば候補者の士気を削ぐという結論に達したと言っていましたよ。実際そのエネルギーが何処にどのような形であるのか当の本人達でさえ分からないんですからね」

さて、と渡は景勝氏に向き直る。

「以上の点から改めてお聞きします。どうされますか？」

「勿論気持ちは変わりません。ただ、お支払いが・・・」

「まあ、それは成功報酬という事で構いませんよ。つまり無事に冒険から帰って来てからという事で」

「ありがとうございます。それで僕はどうすれば？」

「プレゼン、つまり売り込みをかける訳ですから、その点を詰めていきましょう。今回他の事業所からも候補者がいるので倍率はかなり高いでしょう。その後はまたサバイバル訓練という事になるでしょうがね」

渡はそう言うと紙を取り出し色々な質問をまるで就活の面接官の様に丹下兄妹に尋ねていくのだった。