上 下
83 / 88
3章 候補者は4人

3 飛び降りた男

しおりを挟む




 タクシーからとびおりる様に外に出た渡は上着を脱いで川に飛び込んだ。

その間に私はスマホで彼に言われた通り救急車と警察を呼ぶと丹下灯里嬢と共に河原へと降りて行った。

川の流れはそれほど速くはないが意外と深いのか渡は中々上がってこなかった。だがその内にザバと飛沫を上げて20台半ばくらいの男性を連れて渡が顔を出し、こちらの川岸に泳いできた。

私と灯里嬢で彼を助け起こしながら、件の飛び込んだ男性の口から水を吐かせて寝かせると彼女があっと叫んだ。

「兄さん!?兄です、飛び込んだのは兄です!兄さんどうして!?しっかりして!!」

思わぬ展開に私と渡は顔を見合わせたがとにかく病院へ着くまで様子を見る事となった。


飛び降り自殺を図って病院へ運ばれた男性、丹下景勝氏の面会を許可された私達は彼が寝ている病室へと入ると、景勝氏は驚愕の表情で私の隣にいる妹の顔を見た。

「灯里、どうしてここに!?」

「だって突然いなくなるから・・・それにここにいる渡さんが気がついたからいいものの、自殺を図るだなんて」

「もう何もかもがお仕舞いなんだよ。俺はもう生きる価値も意味も、いや例えそれがあったとしても生活していけないんだよ」

悲壮な表情で俯く景勝氏に渡が声を掛けた。

「良ければその訳をお聞かせ願えますか?私は渡界人。異世界総合コンサルタントをしています」

「異世界?まさかあなたも?いいでしょう。私は騙されたのです。悪徳業者にね」

「そこを初めから話してもらえますか?」

興奮気味に語る景勝氏をなだめながら渡が先を促す。

「3か月前の事でした。当時会社を解雇され、多分妹から俺の過去はもう聞いているでしょうから隠しませんが半グレまがいの過去を会社に知られ雇ってられないと言われたのです。元々安月給でしたから貯金も大してある訳でもないので生活はたちまち困窮してしまいました。そこで家の郵便受けに異世界探索の仕事のチラシが入っていたのです。これなら過去を知られてもそれほど不都合はあるまいとすぐに連絡しました」

「それと失踪したのはどういう関係があるんです?」

私の質問に

「それが・・・・家族がいるのか、この事を話しているのかと問われ、両親とは縁を切っていますし、妹にも迷惑を掛けたくないのでいないと答えたんです。すると翌日2人組男達がやって来て目隠しをされて車に乗せられ、ある施設に入れられたのです」

「施設での生活はどうでした?他にも人はいましたか?」

「それがね、渡さん酷いもんですよ。まともな食事は連れてこられた日の1日だけ。翌日からはあらゆる文明の利器を取り上げられた挙句、施設のある山奥に放り込まれて自給自足の生活を強要されるんですからね。木を切り倒してテントを張る為の柱にする?ベッドを枝で作る?火起こしさえあの木の棒を回してやる、あれですからね。そんな原始人生活を15名でやらされましたよ」

「選考基準はどうですか?」

「それも不明瞭で何日か経つと施設に呼び出されたのか1人また1人と消えているのでそれで脱落したのじゃないかと思います。私もそうでした」

「具体的に何か言われましたか?」

「いいえ。ただ眼鏡をかけた冷たい感じの男性から君は不合格だと言われ、所持品といくばくかの金を渡されて目隠しをされて見知らぬ街の真ん中に放り出されましたよ。そして金も尽きたので自殺しようと川に飛び込んだんです。話せることはこれだけです」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

隻眼の覇者・伊達政宗転生~殺された歴史教師は伊達政宗に転生し、天下統一を志す~

髙橋朔也
ファンタジー
 高校で歴史の教師をしていた俺は、同じ職場の教師によって殺されて死後に女神と出会う。転生の権利を与えられ、伊達政宗に逆行転生。伊達政宗による天下統一を実現させるため、父・輝宗からの信頼度を上げてまずは伊達家の家督を継ぐ!  戦国時代の医療にも目を向けて、身につけた薬学知識で生存率向上も目指し、果ては独眼竜と渾名される。  持ち前の歴史知識を使い、人を救い、信頼度を上げ、時には戦を勝利に導く。  推理と歴史が混ざっています。基本的な内容は史実に忠実です。一話が2000文字程度なので片手間に読めて、読みやすいと思います。これさえ読めば伊達政宗については大体理解出来ると思います。  ※毎日投稿。  ※歴史上に存在しない人物も登場しています。  小説家になろう、カクヨムでも本作を投稿しております。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...