79 / 91
2章 渡界人の日報
2-6 魔獣売ります⑩魔獣ペットショップ
しおりを挟む渡が出て行った後、私は鏡に映る映像を切り替えながら見ていたが、彼の言う白人は見当たらなかった。だがいくつかの路地裏で草むらや道路の物陰を覗く、その白人の仲間もしくは部下と思われる肌の浅黒い男の姿をチラシに仕掛けられたカメラ越しに見る事が出来た。男は150㎝程の小男だがガッシリした体格でその表情から悪態をつきながら丸太のような腕を振り回したりしているその様子から頭脳より腕っぷしで世の中を渡ってきたと確信させた。だが我々が調べに行く時間というのは必然的にこの男と鉢合わせるという事でもあるのだ。
その事に不安を覚えながらやがて彼が鏡の中の映像からいなくなってしまうのと同時に渡が帰ってきた。時間を見るととっくに日は暮れていた。
「その様子ではルーティンを崩していないようだね」
「だけど、とんでもない用心棒がいるぜ。突入は昼と夜逆にした方が良いんじゃないか?」
「とんでもない。彼の方がまだやりやすいよ。物を隠したり証拠を隠滅される危険性の方は夜の方が圧倒的に少ない。帰り道彼の行状をたまたま見かけたがね、あの粗暴さでは搦め手を使うという事はしないだろう。いくつかの単語を使えるだけでこちらの言葉も殆ど覚えていないようだしね」
そう言うと渡は紙包みを2つ机に置くとカセットコンロを付けてその上に耐熱性の大きな金属製のコップを置いた。コップにお湯が沸くとその紙包みの1つから粉末を流しこむとかき混ぜる。
「さて、後は1時間ほどこのままにしておけばいい。これが完成したら出かけよう」
1時間後渡と私はアパートを出て例のカムフラージュされた魔獣ペットショップへと向かっていた。渡は例の液体を入れた水筒と未だ正体の分からぬ紙包みを片手に抱えている。
私自身縁のない場所というのもあるが夜の墓石屋というのは下手な墓地などよりよほどホラーな場所だ。自転車屋だの飲み屋だのが雑多に軒を並べているゴミゴミした商店街の中でこの店が立っている場所だけ周りには人間の背丈ほどに伸びた草が生えているだけという、いかにも曰くありげな立地だった。
あの浅黒い男が今まさに店を閉めようとシャッターを下ろしているのを渡は強引に制して店の中に入り、私も後に続いた。
「コマルヨ、オキャクサン」
男の抗議を無視して渡は店の中に所狭しと並べてある墓石や灯篭に例の水筒に入った液体をかけていく。その途端石の表面が剥がれ落ちる様に消え去り、代わりに檻が現れた。その中にはコボルトやスライム、数は少ないがここに書き記すのも汚らわしい別の生物が入れられていた。
「立派な違反だよ。異世界の動物を持ち込んではならないという協約に違反している。間もなくワイザリウシアからこの動物達を引き取りに来る。その前に見ておきたいものがある」
渡がスタッフルームと思しき、店の奥の小部屋へ行こうとした時ピッと何かの音がした。
私達が振り返ると男が嫌らしい笑みを浮かべてリモコンを握っている。一拍遅れて檻が開くとコボルト達が一斉に飛び出して来た。
「ジャマスルヤツコレデシマツ」
コボルト共は須藤女史のコロとは明らかに大きさが2倍以上もある、獰猛な狼か野犬といった出で立ちで私達を囲みじりじりとその輪を狭めてきた。
「明らかに売り物にならなそうだけど?」
「番犬ならぬ番コボルトというわけだよ。僕らの様なのが来ることを想定していたのさ。もちろん彼がね」
渡の視線を辿ると店の入口にもう一人の男が立っていた。渡は素早く紙袋を振った。中から白い粉が店の床にばら撒かれ、それにコボルト達は群がって頭を垂れると腹を見せて甘えた声を牙の間から立てる。
「あれは何だい?」
「コボルト用のマタタビというところかな」
ペット達が役に立たないと知るや浅黒い男は奇声を上げて渡に殴り掛かってきた。だが渡はひらりと身をかわすと電光石火の早業で彼の手からリモコンを抜き取り、男をコボルトのいた檻の一つへ蹴り飛ばすと檻にロックを掛けた。
「さて、話を聞かせてはもらえないでしょうか?私は渡界人。異世界総合コンサルタントをしている者です。こうした『魔獣輸入』が禁じられているのは知っていましたか?」
入り口にいた白人男性は観念したようにため息をつくと項垂れながらこちらにやってきた。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
ダンジョン美食倶楽部
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。
身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。
配信で明るみになる、洋一の隠された技能。
素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。
一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。
※カクヨム様で先行公開中!
※2024年3月21で第一部完!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
無能と蔑まれた七男、前世は史上最強の魔法使いだった!?
青空一夏
ファンタジー
ケアニー辺境伯爵家の七男カイルは、生まれつき魔法を使えず、家族から蔑まれて育った。しかし、ある日彼の前世の記憶が蘇る――その正体は、かつて世界を支配した史上最強の大魔法使いアーサー。戸惑いながらも、カイルはアーサーの知識と力を身につけていき、次第に自らの道を切り拓く。
魔法を操れぬはずの少年が最強の魔法を駆使し、自分を信じてくれる商店街の仲間のために立ち上げる。やがてそれは貴族社会すら揺るがす存在へと成長していくのだった。こちらは無自覚モテモテの最強青年になっていく、ケアニー辺境伯爵家の七男カイルの物語。
※こちらは「異世界ファンタジー × ラブコメ」要素を兼ね備えた作品です。メインは「異世界ファンタジー」ですが、恋愛要素やコメディ要素も兼ねた「ラブコメ寄りの異世界ファンタジー」になっています。カイルは複数の女性にもてますが、主人公が最終的には選ぶのは一人の女性です。一夫多妻のようなハーレム系の結末ではありませんので、女性の方にも共感できる内容になっています。異世界ファンタジーで男性主人公なので男性向けとしましたが、男女関係なく楽しめる内容を心がけて書いていきたいです。よろしくお願いします。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~
月見酒
ファンタジー
俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。
そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。
しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。
「ここはどこだよ!」
夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。
あげくにステータスを見ると魔力は皆無。
仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。
「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」
それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?
それから五年後。
どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。
魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!
見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる!
「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」
================================
月見酒です。
正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します
湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。
そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。
しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。
そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。
この死亡は神様の手違いによるものだった!?
神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。
せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!!
※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる