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2章 渡界人の日報

2-6 魔獣売ります⑩魔獣ペットショップ

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渡が出て行った後、私は鏡に映る映像を切り替えながら見ていたが、彼の言う白人は見当たらなかった。だがいくつかの路地裏で草むらや道路の物陰を覗く、その白人の仲間もしくは部下と思われる肌の浅黒い男の姿をチラシに仕掛けられたカメラ越しに見る事が出来た。男は150㎝程の小男だがガッシリした体格でその表情から悪態をつきながら丸太のような腕を振り回したりしているその様子から頭脳より腕っぷしで世の中を渡ってきたと確信させた。だが我々が調べに行く時間というのは必然的にこの男と鉢合わせるという事でもあるのだ。

その事に不安を覚えながらやがて彼が鏡の中の映像からいなくなってしまうのと同時に渡が帰ってきた。時間を見るととっくに日は暮れていた。

「その様子ではルーティンを崩していないようだね」

「だけど、とんでもない用心棒がいるぜ。突入は昼と夜逆にした方が良いんじゃないか?」

「とんでもない。彼の方がまだやりやすいよ。物を隠したり証拠を隠滅される危険性の方は夜の方が圧倒的に少ない。帰り道彼の行状をたまたま見かけたがね、あの粗暴さでは搦め手を使うという事はしないだろう。いくつかの単語を使えるだけでこちらの言葉も殆ど覚えていないようだしね」

そう言うと渡は紙包みを2つ机に置くとカセットコンロを付けてその上に耐熱性の大きな金属製のコップを置いた。コップにお湯が沸くとその紙包みの1つから粉末を流しこむとかき混ぜる。

「さて、後は1時間ほどこのままにしておけばいい。これが完成したら出かけよう」


1時間後渡と私はアパートを出て例のカムフラージュされた魔獣ペットショップへと向かっていた。渡は例の液体を入れた水筒と未だ正体の分からぬ紙包みを片手に抱えている。

私自身縁のない場所というのもあるが夜の墓石屋というのは下手な墓地などよりよほどホラーな場所だ。自転車屋だの飲み屋だのが雑多に軒を並べているゴミゴミした商店街の中でこの店が立っている場所だけ周りには人間の背丈ほどに伸びた草が生えているだけという、いかにも曰くありげな立地だった。

あの浅黒い男が今まさに店を閉めようとシャッターを下ろしているのを渡は強引に制して店の中に入り、私も後に続いた。

「コマルヨ、オキャクサン」

男の抗議を無視して渡は店の中に所狭しと並べてある墓石や灯篭に例の水筒に入った液体をかけていく。その途端石の表面が剥がれ落ちる様に消え去り、代わりに檻が現れた。その中にはコボルトやスライム、数は少ないがここに書き記すのも汚らわしい別の生物が入れられていた。

「立派な違反だよ。異世界の動物を持ち込んではならないという協約に違反している。間もなくワイザリウシアからこの動物達を引き取りに来る。その前に見ておきたいものがある」

渡がスタッフルームと思しき、店の奥の小部屋へ行こうとした時ピッと何かの音がした。

私達が振り返ると男が嫌らしい笑みを浮かべてリモコンを握っている。一拍遅れて檻が開くとコボルト達が一斉に飛び出して来た。

「ジャマスルヤツコレデシマツ」

コボルト共は須藤女史のコロとは明らかに大きさが2倍以上もある、獰猛な狼か野犬といった出で立ちで私達を囲みじりじりとその輪を狭めてきた。

「明らかに売り物にならなそうだけど?」

「番犬ならぬ番コボルトというわけだよ。僕らの様なのが来ることを想定していたのさ。もちろん彼がね」

渡の視線を辿ると店の入口にもう一人の男が立っていた。渡は素早く紙袋を振った。中から白い粉が店の床にばら撒かれ、それにコボルト達は群がって頭を垂れると腹を見せて甘えた声を牙の間から立てる。

「あれは何だい?」

「コボルト用のマタタビというところかな」

ペット達が役に立たないと知るや浅黒い男は奇声を上げて渡に殴り掛かってきた。だが渡はひらりと身をかわすと電光石火の早業で彼の手からリモコンを抜き取り、男をコボルトのいた檻の一つへ蹴り飛ばすと檻にロックを掛けた。

「さて、話を聞かせてはもらえないでしょうか?私は渡界人。異世界総合コンサルタントをしている者です。こうした『魔獣輸入』が禁じられているのは知っていましたか?」

入り口にいた白人男性は観念したようにため息をつくと項垂れながらこちらにやってきた。
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