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2章 渡界人の日報
2-6魔獣売ります⑥謎の人物を追って①
しおりを挟む捕獲作業が終わり窓から教室へと降り立った渡は未だに震えている若草先生と彼女を抱きしめている同僚の男性教師に近づき、鞄を持ち上げて事が終わった事を告げた。
「本当にあの怪物は退治されたんですか?」
「殺すのは非常に困難です。ですがこの中に閉じ込めてあります。それで今夜何があったのか詳しく話してくれませんか?」
渡の目は男性教師の持つ懐中電灯に注がれている。
その視線に気が付いたのか男性が話始めた。
「私は武田晴臣と言います。実は見回りをしている時に黄色門の近くで怪しい奴を見かけまして。そいつはすぐに逃げたので追いかけたのですが、すぐに若草先生の悲鳴が響いたので通用門から駆け付けたらあの軟体生物が窓の所に張り付いていたんです」
「その逃げたという人物はどんな奴でした?」
「さあ?一瞬だけライトに照らされただけだったので何とも・・・ただどうも日本人っぽくない感じはしました。もしかしたら観光に来た外国人が散歩で紛れ込んだのかもしれません。この学校の建物の色は奇抜ですから興味を引いたのかも」
「ここに来るまでどれくらいかかりましたか?僕らも若草先生から依頼を受けてその軟体生物を探して校舎の外にいたのですが随分と早い様に思えましたので」
「黄色門から通用口までは走れば1分と掛かりません。それに僕は体育科を出ていますから走るのは少々自信があります」
「なるほど。武田さんのクラスの子供達も妙な生物を飼っている子供がいますか?」
「2名ほど。名前は流石に申し上げられませんが」
「それはごもっともです。しかし彼らが何を飼育しているかという話を聞いたことはありますか?」
「どうでしょうね。よくわからん単語が飛び交っているのを聞いたことはあります。コボルトとかヨロイトカゲだのと」
「そのペットショップへ行ってみた事は?」
「勿論。若草先生と一緒に行きました。でもそこには墓石だのを売っている店でペットショップどころか動物の気配さえない陰気な場所でしたよ」
「どうでしょう?今日はこのまま帰られては?特に若草さんは2度も恐怖を体験してしまって仕事どころではないでしょう?武田さんと彼の男性2名が居れば安心だとおもいますが?」
「まさか武田先生が見たという人があの怪物と何か関係があって戻ってくるというのですか?」
渡の提案に若草先生は震えながら言った。
「その可能性があります。僕はここに残ってそいつを待ち構えようと思います」
そして私に向かって小声で
「何かあったらすぐに連絡してくれたまえ。そいつやまだ他の魔獣と途中ですれ違うとも限らないからね」
「分かった」
私はその言葉に思わず怖気を振るったが何とか若草先生と武田先生に悟られない様にすぐに自制心を取り戻した。
その帰り道は何ともぎこちないものだった。全員ほぼ初対面の様なものだし、天気だの最近のニュースの話題などの当たり障りのない話をしてはすぐにその会話は止んでしまう。それでも私は2人が同期であるという事やかつて武田先生が陸上のオリンピック候補に挙がるくらいの将来有望な選手だった話をしてくらいには2人とも打ち解けたと思う。
その後若草先生をマンションまで送り届けて武田先生とも別れ、自分のアパートに帰ってきた私は学校に残った渡の安否とその成果が気になって寝付けず、布団の中をいたずらにゴロゴロしながら夜を明かしたのだった。
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