異世界転生請負人・渡界人~知られざる異世界転生の裏側公開します

紀之

文字の大きさ
上 下
75 / 96
2章 渡界人の日報

2-6魔獣売ります⑥謎の人物を追って①

しおりを挟む


 捕獲作業が終わり窓から教室へと降り立った渡は未だに震えている若草先生と彼女を抱きしめている同僚の男性教師に近づき、鞄を持ち上げて事が終わった事を告げた。

「本当にあの怪物は退治されたんですか?」

「殺すのは非常に困難です。ですがこの中に閉じ込めてあります。それで今夜何があったのか詳しく話してくれませんか?」

渡の目は男性教師の持つ懐中電灯に注がれている。

その視線に気が付いたのか男性が話始めた。

「私は武田晴臣と言います。実は見回りをしている時に黄色門の近くで怪しい奴を見かけまして。そいつはすぐに逃げたので追いかけたのですが、すぐに若草先生の悲鳴が響いたので通用門から駆け付けたらあの軟体生物が窓の所に張り付いていたんです」

「その逃げたという人物はどんな奴でした?」

「さあ?一瞬だけライトに照らされただけだったので何とも・・・ただどうも日本人っぽくない感じはしました。もしかしたら観光に来た外国人が散歩で紛れ込んだのかもしれません。この学校の建物の色は奇抜ですから興味を引いたのかも」

「ここに来るまでどれくらいかかりましたか?僕らも若草先生から依頼を受けてその軟体生物を探して校舎の外にいたのですが随分と早い様に思えましたので」

「黄色門から通用口までは走れば1分と掛かりません。それに僕は体育科を出ていますから走るのは少々自信があります」

「なるほど。武田さんのクラスの子供達も妙な生物を飼っている子供がいますか?」

「2名ほど。名前は流石に申し上げられませんが」

「それはごもっともです。しかし彼らが何を飼育しているかという話を聞いたことはありますか?」

「どうでしょうね。よくわからん単語が飛び交っているのを聞いたことはあります。コボルトとかヨロイトカゲだのと」

「そのペットショップへ行ってみた事は?」

「勿論。若草先生と一緒に行きました。でもそこには墓石だのを売っている店でペットショップどころか動物の気配さえない陰気な場所でしたよ」

「どうでしょう?今日はこのまま帰られては?特に若草さんは2度も恐怖を体験してしまって仕事どころではないでしょう?武田さんと彼の男性2名が居れば安心だとおもいますが?」

「まさか武田先生が見たという人があの怪物と何か関係があって戻ってくるというのですか?」

渡の提案に若草先生は震えながら言った。

「その可能性があります。僕はここに残ってそいつを待ち構えようと思います」

そして私に向かって小声で

「何かあったらすぐに連絡してくれたまえ。そいつやまだ他の魔獣と途中ですれ違うとも限らないからね」

「分かった」

私はその言葉に思わず怖気を振るったが何とか若草先生と武田先生に悟られない様にすぐに自制心を取り戻した。

その帰り道は何ともぎこちないものだった。全員ほぼ初対面の様なものだし、天気だの最近のニュースの話題などの当たり障りのない話をしてはすぐにその会話は止んでしまう。それでも私は2人が同期であるという事やかつて武田先生が陸上のオリンピック候補に挙がるくらいの将来有望な選手だった話をしてくらいには2人とも打ち解けたと思う。

その後若草先生をマンションまで送り届けて武田先生とも別れ、自分のアパートに帰ってきた私は学校に残った渡の安否とその成果が気になって寝付けず、布団の中をいたずらにゴロゴロしながら夜を明かしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

防御に全振りの異世界ゲーム

arice
ファンタジー
突如として降り注いだ隕石により、主人公、涼宮 凛の日常は非日常へと変わった。 妹・沙羅と逃げようとするが頭上から隕石が降り注ぐ、死を覚悟した凛だったが衝撃が襲って来ないことに疑問を感じ周りを見渡すと時間が止まっていた。 不思議そうにしている凛の前に天使・サリエルが舞い降り凛に異世界ゲームに参加しないかと言う提案をする。 凛は、妹を救う為この命がけのゲーム異世界ゲームに参戦する事を決意するのだった。 *なんか寂しいので表紙付けときます

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…

三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった! 次の話(グレイ視点)にて完結になります。 お読みいただきありがとうございました。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

処理中です...