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2章 渡界人の日報
2-6 魔獣売ります②2人の依頼人
しおりを挟むその奇怪な生き物を見て私は思わず目を背けた。このゾッとする姿を見れば誰だって手元には置いて置きたくはないだろう。
「なあ、お嬢ちゃん」
私はなおも声を掛け続けた。この頃にはとっくに自分が不審者として通報されかねないという自覚と焦りで早口になっていた。
「1つこいつについて提案があるんだ」
「何?」
「ちょっと専門家に見てもらおう。お兄さんの友達なんだ。もしかしたら適当な貰い主を見つけてくれるかも」
「本当?でもヘンな事したら警察を呼ぶからね」
そう言って少女はスマホを私に見せた。既に110の伝番と後は通話ボタンを押すだけとなっていた。
私は渡界人がこの所暇だったのを知っていたから彼女を私達の住むアパートへと案内した。
彼女を安心させるべく彼の郵便受けの文言を見せると彼女は目を輝かせて、これなら安心ねと言った。
私達が彼の部屋の前に立つと同時にドアが開いて教師を思わせる、厳格さと優しさを合わせ持った顔立ちの若い女性が出てきた。その女性と少女は互いに数秒見合って同じ言葉を口にした。どうしてここに?と。そして女性が少女の抱える段ボールの中身を見てギャッと叫んだ。
「どうしました、若草さん?ああ君かい。それと彼女は依頼人かな」
奥から部屋の主が現れて少女の抱える段ボールを見るとこちらは至極深刻そうな顔をしながら私達2人を招き入れる。そこで先程の女性がまだ青い顔をしながら
「私も同席してもよろしいでしょうか?彼女は私のクラスの生徒なので」
「勿論ですとも。先程のお話と確実に繋がるでしょうしね」
渡は少女から段ボール箱を受け取ると居間の隅に置くとこう言った。
「私は渡界人と言って、異世界総合コンサルタントをしています。お名前は?」
「須藤真美よ」
「では須藤さん、このコボルトのエサに何をあげていましたか?」
「肉よ。ベーコン。それしかコロは食べないの」
「よくわかりました。君、ちょっと行ってこれでベーコンを買って来てくれないか。それから今日僕がこの若草さんから受けた依頼内容と君の連れてきた依頼人の話を聞こうじゃないか」
そう言うと渡は1000円札を出して私に渡す。
こちらとしてはこの邪悪な生き物にコロなどという一般的な犬の名前は不釣り合いだという思いを飲み込みながらもその指示に従うより他は無かった。
私がありったけのベーコンを買って帰ると渡は私を労いながら椅子に掛けるよう促した。
既に3人ともテーブルを挟んだ椅子に腰かけており、私は渡の隣、須藤真美の正面に座った。
「ではまず須藤さんが持ってきたあの生物ですが」
渡が口火を切った。
「あれは異世界ワイザリウシア産のコボルトです。先程の須藤さんの話で確信しましたがあの世界のコボルトは初めて口にした肉の種類しか生涯口にしないのです」
「ワイザリウシアというと私の話の中にも出てきた・・・・」
渡は頷くと
「では若草さん、彼にもう一度話していただけませんか?私としても情報の整理に役立ちますので」
女性は何かに怯えているのか、身震いした後意を決したように次のような話を語りだした。
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