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2章 渡界人の日報
2-6 魔獣売ります①偶然から起きた事件
しおりを挟む我が隣人渡界人の職業は異世界総合コンサルタントである。その主な業務は依頼人を異世界に「送り込む」事である。だが稀に違う仕事を頼まれる事もままあり、今回の事件はその真逆の「送り返す」事となった事件である。10年ほど前に当時としてもかなり騒がれた事件でかなりセンセーショナルに報道されていた為覚えている方もおられようかと思う。
その事件の真相を伝える為にも改めてここに記そうと思う次第である。
その事件の依頼者と出会ったのは完全な偶然だった。その日の夕方私はバイトの帰りでお気に入りの弁当を買いにスーパーマーケットへ向かっていた。その道すがら小学生低学年くらいの女の子が自分の体程の大きさの段ボールをあまり人気のない路地に置いているのを見てしまった。
(捨て猫か捨て犬か。飼いもしないのをこうやって捨てるのはどっちみち勘弁してほしいものだ)
その時はただ嫌な物を見た程度だったのだが、その女の子は私の帰る時も路地に近い電柱の影で自分の捨てた段ボールをジッと見つめていた。その目には明らかに罪悪感と誰かいい人に拾われる事を願っているのがありありと浮かんでいた。
これだけならありふれた物だったろうが、私が彼女のいる電柱を通り過ぎようとした時、妙な音がした。最初は自分の腹の虫でも鳴ったかと恥ずかしくなったが直ぐにそれが例の段ボールの中から発せられているのを察して思わず後ずさってしまった。そこから発せられる唸り声ともいびきともつかぬ呼吸音は人を本能的に警戒させる物だったのだ。
「君は何を捨てたんだい?」
私は通報される危険性をこの時考えられないほど動揺して、彼女に声を掛けてしまった。
「コボルトよ」
「それがあいつの名前かい?僕はそいつがどんな動物かって聞いたんだが」
子供の相手はこれだから疲れるのだ。彼らは自分の知っている事がさも世界全ての常識であると信じ切っているのだ。それがどんなに狭い、それも自分以外知りようのない事だとしてもである。
「だからコボルトよ」
もう一度彼女はそう言った。声には若干の苛立ちがあった。
「ファンタジーは多少知っているけどね、コボルトってのは犬だか狼だかの頭をした怪物だろう?」
「そうよ。そのコボルトよ」
少女は勝ち誇ったように言う。その目はもしかしたらこの人が拾ってくれるかもしれないという期待に輝いているのを見て、まずい事に首を突っ込んだと後悔した。
こうなるともはや中身を確認しない訳にはいかなくなった。怖々覗いてみると確かにいた。
赤い目とそいつの獰猛さを裏付ける鋭い牙、ピンと立った三角形の耳をした茶色の獣。その獣は首から下は明らかに人間に近い体をしていた。その体長20センチほどの獣人が段ボール内で蠢いていた。
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