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2章 渡界人の日報

2-5 悪人転生③脅迫と包囲網

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 「議論もクソもあるか。ただ一言あなた様を異世界にご案内しますと言えゃいいんだ」

強盗はイライラしながらがなり立てる。

「俺はな、次更剛士といえばこの辺で少しは名の知れたワルよ。ただ若い頃のヤンチャが抜けなくて仕事が長続きしねえ。金の入る予定もないからギャンブルで稼ごうにも負けが込んでいてな。そんな時だったな。遠近にあったのは」

強盗はこちらが聞きもしないのにペラペラと自分語りを始めた。

「そういえば彼もここへ来た時にそんな事を言っていましたよ。罪を償ったら自分に良くしてくれたあなたと一緒に異世界に行きたいとね」

「そうとも。それを台無しにしやがって!」

渡の説得はこの次更なる男には逆効果だった。

ダンと足を鳴らすと包丁を渡に突きつけながら

「俺達は新天地でやり直したいだけだったんだ。それをおめえ、くだらねぇ理屈をこねやがってあいつをムショ送りにしやがって。あいつからここの事は聞いていたからな。立てこもるついでにあいつの釈放を警察の奴らに要求する人質になってもらうぜ」

「何と言われても僕の意見は変わりませんよ。この世界のルールを守れない人間が異世界のルールを守れるとも思えませんしね。遠近君はそれを受け容れてくれただけですよ。まさかあなた方は異世界に行ってまで強盗の類で食いつなぐつもりもないでしょう?」

「当たり前だ!」

ギロリと渡を睨む次更の目は今にも彼を刺しかねないほどに血走っている。

「だがな?聞けば異世界とやらは数百年前の世界と似てるっていうじゃねえか?そんなカビ臭い法律を守る義理も無いだろうが?」

「そこが勘違いもいいところなのですよ。治安が悪いというのは統治者がいかようにも法を運用できるという事でもあるのです。つまりこの世界では牢屋に入れられる程度の罪でも向こうでは即座に死刑という事もあり得る。それどころか官憲に引き渡される前に住民にリンチで処刑される可能性もあります。そんな事になり得る人間を異世界に送り込むのは僕の信用問題に関わってくるのでね」

「ごちゃごちゃうるせえな。お前、異世界に連れて行くなんて言って人をだまくらかす言い訳を並べているだけなんじゃねえのか?そうじゃないならさっさと連れていけ!何ならコイツから痛めつけてやろうか?」

次更は標的を私に変え、私の首筋に包丁の刃を当ててくる。その冷たさに体を強張らせた瞬間けたたましいサイレンと拡声器越しの声が響き渡った。

「次更剛士!!お前は包囲されている!大人しく出てきなさい!!」

通報があったのか私達のアパートの周りは警察と野次馬の群れに囲まれていた。
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