異世界転生請負人・渡界人~知られざる異世界転生の裏側公開します

紀之

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2章 渡界人の日報

2-5 悪人転生②降ってわいた災難2

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 私は何者かに狭く短い廊下を引きずられ、居間の隅に足を縛られた渡界人の隣に乱暴に投げ飛ばされた。

「だから来るなと言っただろ」

「こいつは誰だ!?」

私を連れ込んだ毛むくじゃらの腕の持ち主が渡の言葉を遮るように言った。

「昼間メールを出した友人ですよ」

黒い目出し帽に包丁という強盗お決まりのスタイル、声の調子から40代くらいとみられるその男に渡は全く怯んでいる様子は無い。

強盗としてはこの部屋程物盗りに適さない場所も無いだろう。

キッチンにはビジネスホテルにあるような小さな冷蔵庫と電子レンジのみ、居間には天井に届きそうなばかでかい古ぼけた鏡と小さな棚とTVという、最低限度も無い家具しかないからだ。もっともこの古ぼけた鏡の真の使い方を知ったらそれこそ値段のつけようがない位の価値があるのだが。

「コイツ」

「あ?」

「いえこの方は?」

あからさまに包丁をちらつかせる侵入者を横目に見ながら私は渡に問う。

「ニュースを見ていないのか?この近辺で発生したコンビニ強盗のニュースを?」

「ここに逃げ込んできたってのか?」

彼の部屋はアパートの端にあるのだ。追われているなら手っ取り早く近くの部屋に侵入すればいいと思う。

「どうもそれだけじゃないようだ。申し訳ないが彼にも分かるように要求をもう一度言ってはもらえませんかね?彼もこの仕事に関わりのある人間でしてね」

それは彼も同じ考えだったようだ。強盗は苛立った声で

「1人より2人なら仕事の効率もいいって言いてえのか?ならもう一度言うから耳かっぽじってよく聞けよ。俺を異世界に高跳びさせろ。いいか、1年前の遠近雅也の時の様なナメたマネは俺には通用せんからな」

「その遠近雅也ってのは?」

「ケチな食い逃げだよ。もっともそれを知ったのは転移直前でね。奴はごく普通に僕の所へ依頼にやって来たのだが」

「お前は生きる為に仕方なくやった、ちっぽけな罪を大犯罪みたいに騒ぎ立てやがって警察に通報してここにやって来たあいつをむざむざ引き渡しやがった。そんな事をしてみろ、俺はあいつ程優しくねえ」

強盗は私達の目の前で包丁を振り回しながら喚く。

「では遠近君にも言った事をあなたにも言いましょう。この世界で罪を償って更生する方がよほどマシですよ。向こうの世界は司法なぞない、殺伐とした世界ばかりですからね」

「へっ、そっちの方がよっぽどいいや。実力があれば何でもし放題。最高じゃねえか」

「送り込む側としては許せませんね。わざわざ異世界の治安を悪くするような真似をする必要性はありませんから」

「まさかその押し問答をずっとやっていたのか?」

「そうとも。議論は平行線でね。君にとっては災難だろうがこの際だ。知恵を貸してくれ」
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