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2章 渡界人の日報
2-4地上最強の男⑦ 犯人を追って3
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今回の黒野の手口は相手の数と名前が違うだけで大体次のようなものだった。以下はその事件を扱った記事である。
『〇月×日午前7時東京都S署前に荒縄で縛られた13名の男が発見された。いずれも暴行の跡があり、2名は意識不明の重体であった。彼らは指定暴力団咬竜会組長神崎竜真を含めたメンバーである事が判明した。調べによると20代の男が事務所に押し入るなり組員らに暴行を加えた後拘束し警察署前に『連れてきた』との事で防犯カメラにも拘束した組員らを引きずって歩く男の姿が映っていた。警察はこの男の行動が咬竜会への個人的恨みと見て引き続き捜査を進めていくとしている』
なお補足として私達にはかなり信ぴょう性のある話ではあるが一般的には眉唾もののこれらの事件に関する逸話をあるアングラ雑誌から引用する。
『いきなりやってきやがって、「ゴミ掃除だ」とかでよ。こっちとしてもメンツってモンがあるから受けて立つわけなんだがそれが訳の分からない事になるんだ。奴さんどう見ても武道だのスポーツだのは学校の体育くらいしかしたことないって体をしてるんだが、信じられるか?一撃で俺らを叩きのめしやがる。おまけに今でもトリックかさもなくば悪夢だと思うのは刃物で刺しても傷も出来なけりゃ痛みを感じてるそぶりもねえ。絶対死なないって思っている薄気味悪い笑みを浮かべているんだ。何!?俺の頭がおかしいだと!そうかもしれねえ。だがあいつの異常さは見た奴しか分からねえよ』
これら事態が異様な進展を見せたにも関わらず渡は予定を変えることなく昨夜目を付けた建物へと向かった。
そこは異様に年期の入った建物と今にも落ちるのではないかと思われる看板に『杖居薬種店』と書かれた個人経営の薬局だった。
店の門を少し進むと大きなプランターにかなりの距離を置いて10本の赤緑色としか言いようのない、奇怪な色の花が植えられていた。
それを渡も一瞥すると中に入った。
彼に続いて中に入ると恐らく調合した薬であろうツンとした刺激臭が鼻についた。
内部は外観よりさらに古びていた。店内はおよそ21世紀から中世にタイムスリップしたのではないかと思われるほどの古臭い棚やケースに入れられており、それらはやろうと思えばいつでも万引きできる程にセキュリティは皆無なのであった。それというのも人の気配がまるでないのだ。
「何処なんだ、ここは?」
ゲームでよく見かける錬金術師の工房を思わせる作りに内心ワクワクしながら私が尋ねると
「ほら、僕が作っている各種薬液があるだろ。あれの専門店なんだよ。最もここは届け出を出してない違法店らしいのだが。僕の贔屓にしているのは表向きは有名ドラッグ店をやっているが、僕の様な客向けに難しい調合や素材の珍しい薬を売ってくれるのさ」
店の中を見回していた渡はそんな私の心を知ってかそんな冷や水を浴びせる。
「まさか逃げたのかな」
「それはない。何故ならここに来ると昨日電話したからね。ただ警戒はしているだろうね」
彼は店の奥にドンドン入っていくと奥の部屋を開け放った。
そこには布団が1つあるだけの粗末な和室で所どころ畳がささくれていたし、障子の紙が剝がれかけていた。
「真壁さん、昨日電話した、渡界人です。会見の約束の時間なのですがね。どうされました?」
返事はなかった。
「まさか死んでいるのか?黒野に口封じされたとか?」
「生きているよ。それも正常な呼吸をしている」
私達のやり取りを聞いていても布団からは反応はない。
「ダンマリの理由は我々を警戒しているかそれとも軽蔑しているのか知りませんがね。誰も知らないと思って店の前のプランターで爆薬草の栽培は感心しませんね」
ビクリと布団が動いた。
「あれは1株から得られる煮汁から都庁を吹き飛ばすに足る破壊力を持つ液体爆薬になる代物です。それも栽培が比較的容易とあって40年前正確に言えば1970年5月21日付で栽培禁止になったはずですよ」
「モノを知らんな、若造。あれはな、発効日からさかのぼって15年以上の業者は取り扱い可能だ。それにあの煮汁は爆発だけではない。良い記憶消去薬になる」
意地の悪い老人の声が布団の中から聞こえた。
さながら舅が気に入らない婿殿をいびっているような構図だ。
「そう、そしてある種の薬品の効力を一時的に高める事も出来る。一種の透明化の薬のようなね」
「そこまで知っているならおめえ、誰が何を作ろうがどうでもいいだろう。長生きしてみりゃつまらん世の中になっちまってこちとら消え入りたいくらいだからな。昔は転生者・転移者と言えば社会に適合できないが気骨のある奴らだったが今は違う。下らん小せえ目的の為だけに世界を超えたがるんだからよ」
吐き捨てるような老人の言葉に渡は
「ではあなたのお眼鏡に適う人間が現れたという事ですね。店に入ってすぐ左のカウンターの右から3番目の存在消失薬を量からして2日分ある男に処方しましたね?彼はあなたに何と言ったのですか?」
渡の厳しい物言いで老人は引っ被っている掛布団をバッと跳ね上げてそのネズミ色の作務衣のいかにもガンコ職人といった姿を初めて私達の前に現した。
「あんた、何者だ?何が目的だ?」
上ずった声で老人が尋ねる。
『〇月×日午前7時東京都S署前に荒縄で縛られた13名の男が発見された。いずれも暴行の跡があり、2名は意識不明の重体であった。彼らは指定暴力団咬竜会組長神崎竜真を含めたメンバーである事が判明した。調べによると20代の男が事務所に押し入るなり組員らに暴行を加えた後拘束し警察署前に『連れてきた』との事で防犯カメラにも拘束した組員らを引きずって歩く男の姿が映っていた。警察はこの男の行動が咬竜会への個人的恨みと見て引き続き捜査を進めていくとしている』
なお補足として私達にはかなり信ぴょう性のある話ではあるが一般的には眉唾もののこれらの事件に関する逸話をあるアングラ雑誌から引用する。
『いきなりやってきやがって、「ゴミ掃除だ」とかでよ。こっちとしてもメンツってモンがあるから受けて立つわけなんだがそれが訳の分からない事になるんだ。奴さんどう見ても武道だのスポーツだのは学校の体育くらいしかしたことないって体をしてるんだが、信じられるか?一撃で俺らを叩きのめしやがる。おまけに今でもトリックかさもなくば悪夢だと思うのは刃物で刺しても傷も出来なけりゃ痛みを感じてるそぶりもねえ。絶対死なないって思っている薄気味悪い笑みを浮かべているんだ。何!?俺の頭がおかしいだと!そうかもしれねえ。だがあいつの異常さは見た奴しか分からねえよ』
これら事態が異様な進展を見せたにも関わらず渡は予定を変えることなく昨夜目を付けた建物へと向かった。
そこは異様に年期の入った建物と今にも落ちるのではないかと思われる看板に『杖居薬種店』と書かれた個人経営の薬局だった。
店の門を少し進むと大きなプランターにかなりの距離を置いて10本の赤緑色としか言いようのない、奇怪な色の花が植えられていた。
それを渡も一瞥すると中に入った。
彼に続いて中に入ると恐らく調合した薬であろうツンとした刺激臭が鼻についた。
内部は外観よりさらに古びていた。店内はおよそ21世紀から中世にタイムスリップしたのではないかと思われるほどの古臭い棚やケースに入れられており、それらはやろうと思えばいつでも万引きできる程にセキュリティは皆無なのであった。それというのも人の気配がまるでないのだ。
「何処なんだ、ここは?」
ゲームでよく見かける錬金術師の工房を思わせる作りに内心ワクワクしながら私が尋ねると
「ほら、僕が作っている各種薬液があるだろ。あれの専門店なんだよ。最もここは届け出を出してない違法店らしいのだが。僕の贔屓にしているのは表向きは有名ドラッグ店をやっているが、僕の様な客向けに難しい調合や素材の珍しい薬を売ってくれるのさ」
店の中を見回していた渡はそんな私の心を知ってかそんな冷や水を浴びせる。
「まさか逃げたのかな」
「それはない。何故ならここに来ると昨日電話したからね。ただ警戒はしているだろうね」
彼は店の奥にドンドン入っていくと奥の部屋を開け放った。
そこには布団が1つあるだけの粗末な和室で所どころ畳がささくれていたし、障子の紙が剝がれかけていた。
「真壁さん、昨日電話した、渡界人です。会見の約束の時間なのですがね。どうされました?」
返事はなかった。
「まさか死んでいるのか?黒野に口封じされたとか?」
「生きているよ。それも正常な呼吸をしている」
私達のやり取りを聞いていても布団からは反応はない。
「ダンマリの理由は我々を警戒しているかそれとも軽蔑しているのか知りませんがね。誰も知らないと思って店の前のプランターで爆薬草の栽培は感心しませんね」
ビクリと布団が動いた。
「あれは1株から得られる煮汁から都庁を吹き飛ばすに足る破壊力を持つ液体爆薬になる代物です。それも栽培が比較的容易とあって40年前正確に言えば1970年5月21日付で栽培禁止になったはずですよ」
「モノを知らんな、若造。あれはな、発効日からさかのぼって15年以上の業者は取り扱い可能だ。それにあの煮汁は爆発だけではない。良い記憶消去薬になる」
意地の悪い老人の声が布団の中から聞こえた。
さながら舅が気に入らない婿殿をいびっているような構図だ。
「そう、そしてある種の薬品の効力を一時的に高める事も出来る。一種の透明化の薬のようなね」
「そこまで知っているならおめえ、誰が何を作ろうがどうでもいいだろう。長生きしてみりゃつまらん世の中になっちまってこちとら消え入りたいくらいだからな。昔は転生者・転移者と言えば社会に適合できないが気骨のある奴らだったが今は違う。下らん小せえ目的の為だけに世界を超えたがるんだからよ」
吐き捨てるような老人の言葉に渡は
「ではあなたのお眼鏡に適う人間が現れたという事ですね。店に入ってすぐ左のカウンターの右から3番目の存在消失薬を量からして2日分ある男に処方しましたね?彼はあなたに何と言ったのですか?」
渡の厳しい物言いで老人は引っ被っている掛布団をバッと跳ね上げてそのネズミ色の作務衣のいかにもガンコ職人といった姿を初めて私達の前に現した。
「あんた、何者だ?何が目的だ?」
上ずった声で老人が尋ねる。
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