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2章 渡界人の日報
2-4地上最強の男⑥ 犯人を追って2
しおりを挟む私は唐突ともいえる黒野の『善行』の報道を苦々しげに見ていた。
私の隣のカウンター席に座る渡は傍目にはいつもの冷静さでTVを見つめていた。
『本日18時ころ都内の複数の児童養護施設や障碍者支援施設へ「異世界帰りの英雄」という名前で1施設当たり5000万から1億円規模の現金の入ったジェラルミンケースが置かれており皆様の好きに使って下さいとのメモが残されていたとのことです。これらの現金は本日昼に起こった現金強奪事件で奪われたものであることが判明しました』
画面は切り替わりインタビューを受けた施設関係者は困惑している、気持ちは嬉しいが自首して欲しいというコメントを出していた。
「渡、これは・・・」
「ま、その問題は帰ってから検討するとしよう。食事がまずくなるからね。何より作ってくれた店の人にもそれは失礼という物さ」
そう言った渡は実際これ以降店の中では仕事に関する話題は一切触れず青梗菜やらブロッコリーやらの栄養価についての持論を滔々と述べていた。
これらの事件とは関係のない話題は帰り道も続いたがアパートの部屋に帰り着くなり
「さて、あの報道に関する君の意見を聞こうじゃないか」
「そうだな。唐突な印象だが、もしかしたら当初の予定とは金額が違うだけで最初から計画の内に入っていたんじゃないかな?」
私は彼の変わり振りに面食らいながらも報道を見て思った事を伝えた。
「なるほどね。現時点で事件発生からまだ6時間も経っていない。つまりあらかじめ寄付する場所を見定めていたというのだね」
「そうだな。もしかすると黒野は寄付した施設の出身かもしれないよ。複数にしたのは足がつかないようにする為とか?」
私は渡が満足そうな笑みを浮かべている事に気が付いてつい自分の推理を話し出していた。
「そして思ったような反応が得られなかった。見たまえ、ネットでもこの『寄付』に関しては賛否両論いや否の意見が多いな」
「善意からではないっていうのか?」
「本人に直接会って話を聞いていないから何とも言えないが、今日僕らがログの事務所で見たような会見の内容から判断すれば普通いくら社会やら他者に対して敵意があろうともそれをペラペラ話す奴が完全な善意の寄付目的の為に大金を奪うとはとても思えない。今回の1件は一種のシミュレーションみたいなものだろう」
「何のだい」
「つまり自分の承認欲求を満たす為の物だよ。だが君の意見もあながち間違いではないだろう。つまり黒野という男が完全な悪人ではないという点には僕も同意したいね。ただ強大な力をこういう事でしか使えないというのは英雄で無く、ただの一般人である事の証と断言していい。この点から次の行動も予測できる」
「やけに自信があるみたいだが、次はどうすると思うんだ?」
「2通り考えられるが、いわゆる暴力だな」
そう言うと彼は地図アプリで『寄付』が行われた施設を確認しながら、それらの場所を逐一ポイントを付けると例の低い棚から何かの辞典の様な物を引っ張り出して何かを調べ始めていた。
「何の辞典を調べているんだ?」
私が覗き込むと
「これかい?僕が作った仕事上関係のある業者の住所一覧表だよ。奴が『寄付』をした時まだ夕方だった。だのに消失の魔法を使っていないにも関わらず目撃証言は全くと言っていいほどなかった。つまり何がしかの方法でその姿を隠していたと見るべきだ。そしてあった。
ここには僕も初めて行く場所だから同業者に評判を聞いておいた方が良いな。とは言えこの時間はもう寝ている可能性が大だから明日朝早くニュースを確認してから電話をするとしよう」
彼の予測は当たった。
翌日から黒野の思われる人物が次々と暴力団や半グレと言われる集団を片っ端から暴行し、警察へ突き出し始めたのである。
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