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2章 渡界人の日報

2-4 地上最強の男① チート野郎の帰還

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 この事件は数ある渡界人と私の関わった事件の中で初めて完成した記録文書である。

だがいざこれを発表しようとした時渡からストップがかかってしまった。

曰くあれほど日本全体を混乱に陥れた事件の真相を発表した後の事態の推移は日本社会どころか人間社会そのものに大きな動揺を与えかねない、という指摘だった。

よってこの人類がこれらの事態を受け止められる程成熟していると考えられるまではこれを永久に封印する事を私は彼から約束させられたのだった。

とはいえこれ程大きなかつ奇妙な事件を私の頭の中だけで留めておくには荷が勝過ぎているし、何より彼の言う『その日』の為にも残しておいて損はないと思いここに記すのである。




渡界人と私が異世界ダイレクシオンのチートを記した石板奪還事件は実行犯を遂に取り押さえる事が出来ないという不完全な結果に終わってしまった。

この事から当然予想される結末が起こってしまったのである。

「それで、貴女方に追放される直前に『スキルドレイン』でダイレクシオンの天界以外でも能力を使えるようにされてしまったわけですね?」

渡の部屋の巨大な鏡に映る転生神シェパの顔は屈辱と怒りに引きつっていた。

「‥‥そうです。全く忌々しい。まさか石板に書かれている技能や能力を全て使えるようになっているとは思いませんでした。これもあの鍛冶神ログの仕業でしょう」

「しかし事は深刻です。今度は僕たちの世界でその力が振るわれるわけですから」

「それに関しては申し訳なく思っています。しかし・・・」

「ええ、分かっていますよ。貴女方がこちらの世界に干渉できない事はね。ただいくつか質問をしても宜しいでしょうか」

「何なりと。渡界人」

「まずこの下手人についてお聞かせください」

「名前はクロノゲンヤといって貴方達とよく似た特徴の人間の男性です」

「そこをもっと詳しくお願いします」

「年齢はまあ、貴方と同じか少し下でしょうか。黒髪黒目の可もなく不可もなくと言った容貌ですね。ここに来たときは礼服の様な物を着ていましたが今はどうか分かりません。与えた能力は『消失』でこれは自身や他の物体を消せることができます」

思っていた以上に強力なスキルに思わず私は唸ってしまった。

「大変な能力じゃないですか。これなら人間だって」

「それは大丈夫ですよ。自身を除く生命体は消す事は出来ません」

安堵する私をたしなめる様に渡は

「しかし脅威が去った訳ではありません。石板に書かれていたという数々の能力・技能ですがこれを同時に複数使用することは出来るでしょうか?」

「それは出来ません。1度に1つまでという大原則が崩れる事はありません。例えば消失の技能を使いながら誰かを洗脳する能力を使うという芸当は出来ない訳です。この場合消失の効果が即座に切れてしまいます」

「これらの能力を消し去る方法が私達にもできるでしょうか?」

「本来ならば持ち出し厳禁なのですがこの非常時です。これを」

女神がそう言うと私達の目の前に光と共に円筒形の物体が現れる。

「これは?」

「それを能力を与えた者に向けて暫くすると能力を消し去る事が出来ます。ただし取得している量が量ですからそれなりに時間がかかるでしょうね」

「分かりました。なにかあればまた連絡をします」

「吉報をお待ちしていますよ」

そう言うと女神シェパの姿は鏡から消える。


「それでどうやって探すんだ?女神が今言った特徴の日本人なんてごまんといるぜ」

「幸い、僕らは鍛冶神ログの現世で活動していた事務所の場所の見当がついている。そこに行って顧客名簿をちょっと拝見させてもらおう」

その言葉に私は驚いて

「何でそんな事が分るんだ?僕は全くだよ」

「奴の事務所の窓からの景色からさ。君は内装にばかり注意を払っていたがね。まあ案内は任せたまえ」

そう言うと不思議な薬液を入れた小さな手提げ鞄を持って私達はクロノなる人物の手掛かりを探して街へ出た。
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