異世界転生請負人・渡界人~知られざる異世界転生の裏側公開します

紀之

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2章 渡界人の日報

2-2 ドラゴン転生終章 力の及ばぬ結末

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日之出敏明氏は渡が取り出した本を見て

「そうなのです。驚きましたよ。数年前に妻にあった時香菜、娘の名前ですが煙の様に消えてしまったと聞かされ方々手を尽くして探しましたが全く手掛かりが無かったのです。殆ど諦めかけていた所に偶然立ち寄った書店の店頭に行方不明になった娘によく似た少女が描かれた本があり、思わず買ってしまいました。読んでみれば見るほど娘としか思えない描写が書かれていました。娘なりの苦労があった事やそこから逃げ出したがっていた事そして物語が終わりに近づくにつれて勇者不要論まで出てくる始末。そこで改めて父親として出来る事が何かないかと考えた結果、今更素性を明かす事は香菜にとって危険ですからドラゴンの様な勇者が討つに相応しいモンスターが出現すれば異世界の人々も彼女を大事に扱うだろうと考えたのです」

「それで執筆した黒崎美鈴を訪ねて彼女が娘さんを転移させた張本人だと分かり最初彼女へ今回の件を依頼した訳ですね」

「ええ、あの女性も驚いていましたよ。娘から聞いていた人物像と違うと。何でも子供に無関心で養育費さえロクに払わないクソ親父だと言っていたようです。確かに会社をリストラされ現在の派遣の仕事では養育費どころか自分1人が生活していくのに手一杯です。だけれどもわたしなりに娘を愛していたつもりです。その贖罪を今からでもさせてほしいと頼みまして、ここを紹介されたわけです」

「しかし日之出さん。あの世界はあの世界の住民や生態系があり、当然そこに根付いた文化や生活という物があります。そこにあなたがドラゴンとして出現する事は大きな社会不安を引き起こす事になります。最悪あなたが原因で国家間の戦争が始まる可能性だってあるのです」

「ですがあの国は戦争ばかりしているんですよ。それも別の世界から戦う為の人材を呼び出してまで戦いに明け暮れているのなら、それがちょっと大きくなったところで構わないではないかとも思いまして」

依頼人のこの発言は渡に睨まれて最後の方は蚊の鳴くような小ささになっていた。

「私はちょっとしたツテで娘さんのいる国に関わる、ある『人物』から統一された帝国が未だ混乱状態にある事を知りました。そしてこれを終わらせる事の出来る人材はその香菜さんしかいないが、現地の貴族はその力と影響力を恐れて登用したがらないと嘆いてもいました。そこで私はある人物を香菜さんと同等の能力を付けたうえで送り込んで一大勢力としてぶつける事を提案しました。この提案をその人物は了承してくれましたよ」

「それがドラキュラという事ですか」

「まあ、そこは異名という形ですけどね」

どうしますか?という渡の問いに日之出氏は一も二もなく了承した。

その夜遅く、私達に見送られて日之出敏明氏はアイアンハックへと転移していった。

数か月後私があの瘋癲堂へ行ってみると異世界へ行ったあの親子の死闘があのマイダル・イージ本の続編という形で出版されていた。

詳しい描写は営業妨害になるから書けないけれども、その本には突如現れた新興貴族の横暴に閑職に追いやられた女勇者が立ち向かうという物であった。



「事の真相を知っている身としてどうだい、この結末は?」

「やりきれないね。もっといい方法が無かったのかと思うよ」

その夜私も渡も当然この本を買って感想を言い合った。

「その通りだ。こいつは失敗と言っていい。結果的に動乱は収まり帝国は新体制として盤石となって平和が訪れたがその過程で互いの素性を知らない血の繋がった親子を殺し合わせてしまったのだからね」

「だけど先の知れない戦乱に終止符を打ったんだぜ。間接的には異世界を救ったとみていいんじゃないか。僕らは神や仏じゃないんだから」

私は彼をそう慰めた。

「‥‥そう言ってくれると少しは気が軽くなる。だが君、今後僕が仕事に手を抜いていると感じたら迷わず今回の件を出してくれ。それが僕にとって何よりも薬になるだろう」

そう言って渡はその本を書棚に戻した。
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