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2章 渡界人の日報

2-2 ドラゴン転生⑤同業者・黒崎美鈴

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どうぞという声の後に扉を開けるとそこは社長室にあるような高級机と書棚そして渡の部屋にあるような巨大な鏡のある、大きな部屋だった。

その机に燃えるような背広を着こなし、赤髪のやり手の女社長といった風の中性的な美女が座っていた。

「お久しぶりですね、渡界人さん。わが社のオファ―を受けてくれる気になりましたか?」

「いや。今日は別件で来ました、黒崎美鈴さん」

渡はそっけなく言った。

「お互い忙しい身ですし単刀直入に行きましょう。貴女が僕の所に回したあの日之出敏明氏はここへ何を頼みに来たのですか?」

「あら、あの方は何も言わなかったんですの?ドラゴンになりたいとかで。私共は『副業』の関係上人間にしか転生させません。ちなみにエルフやドワーフなども無しです。種族が違うと感性等の精神構造も変わってしまいますから、読者の共感を呼びにくいんですよ」

「具体的な事を何も言わなかったものでね。何か要望はありましたか?」

「それが漠然としていて種族や外見・能力等に興味が無いらしくて、殆ど一般的な知識しか持っていらっしゃらないようでした」

「つまり典型的な一般人が発作的に頼みに来た、という事ですか?」

「そうとも言えますね」

黒崎美鈴は含みのある笑みを浮かべた。

「理由を言っていましたか?」

「なんでも最強の存在になりたいとか。でも人間には飽き飽きしているとも言っていました」

「彼はこれを買ってこの女性について聞いたのではありませんか?」

渡は先程買った本を取りだして見せた。

ここで彼女は営業スマイルを浮かべて

「ノーコメント。その本を買ったのなら読んでください。それで全てが分かりますよ」

「では質問を変えましょう。最近もっと正確に言えばここ半年の内にアイアンハック・カーテシニア・ネッケンいずれかもしくは複数の国に転生あるいは転移者を送り込みましたか?」

「それもまたノーコメント。顧客情報を本人の許可なく第三者に渡すわけにはいきませんわ」

「なるほど。では最後に一つ。マイダル・イージに統一帝国が再び出来上がりましたが、その平和が長続きすると思いますか」

この質問に私も黒崎美鈴も驚きで目をパチパチさせた。

「質問の意図が良く分かりませんが・・・・」

「何も難しい事ではないと思いますよ。貴女の率直な意見が聞きたい」

「そうですね。少なくとも数年は混乱は続くでしょう。戦争が無くなった事で傭兵や軍隊の一部は野盗化するでしょうし宮廷での権力争いが発展して内乱になるかも。しかしそうでない可能性もあります。つまり一致団結して国を栄えさせるという道です」

「そうなった場合そこへ来た転移者達はどんな扱いを受けますかね?」

「さあ?閑職へ追いやるか処刑するか。乱世にて一騎当千の兵士は平時では危険極まりない異形の怪物でしょうから」

「どうもありがとうございました。これで聞きたい事は以上です。早速帰って読んでみますよ」

渡は本を人差し指でトントン叩きながらそれを鞄にしまった。

「きっと気に入ると思いますわ。口コミで評判が良くって他の書店へ出荷する予定ですから」

そう言うと私達はあの不思議な空間を後にし、方位磁石を受付へ返すと帰路に就いた。
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