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2章 渡界人の日報
2-2 ドラゴン転生①ドラゴンになりたがる男
しおりを挟む多分に個人的な理由とは言え、我が隣人渡界人の特異な仕事内容を記録するにあたり、私がそれらの文書及びその他記録データを公に出来るのは彼の許可がいる事は当然といえよう。
殆どの案件は依頼人やその関係者に与える影響を鑑みて公開にはかなりの年月が経つかそのまま全く日の目を見ないという事もある。
これから記すのは私が彼から公開を許可された文書第一号である。
ただし私の一存で発表の順番は入れ替えさせて頂く事を了承願いたい。
我が隣人へ依頼をすること自体が突飛なものだが、201X年の夏に現れた依頼人、日之出敏明氏の「ドラゴンに転生させてほしい」という物ほどぶっ飛んだ依頼は私が関わりだしてから初めての事であった。
日之出氏はくたびれた背広に度の強い眼鏡、額から頭頂部に掛けて禿げ上がり残った髪も半白とどう見ても私達の親くらいの年齢に見えたがなんとまだ40代だという。
「実はここへ来る前に同じような依頼を出したんですが、そこではそういうのは受け付けていないからここを頼れと言われまして。紹介状もあります」
そう言って彼は渡にポケットから上等な紙で出来た封筒を手渡す。
そこにかかれた文字をチラと見た私はそれが女性の書いた繊細な筆跡なのを見逃さなかった。
渡は中の手紙を読むと
「随分と変わった依頼ですが何故ドラゴンなのでしょう?人間として異世界転生もしくは転移した『第二の人生』であるからこそ名声だの富だのの意味があると思うのですがね。実際私のもとに来る依頼人の大半はそれが目当てですよ」
「そこなんですよ!」と依頼人は急に語気を強めた。
「人間である以上他人との繋がりを持たざるを得ない。私はね、そういう物に心底疲れ果ててしまったんです。ですがドラゴンは希少種でしょう?そして強い。オークだのスライムだの群れる連中と違ってね。そしてその強さ故に孤高の存在としていられる。無論あなたの懸念は分かります。冒険者共からひっきりなしに挑戦を受ける事になると言うんでしょう。ですがそういう驕った連中を返り討ちにする事こそ快感だと思いませんか?そして人間共が私の足元に跪く事の爽快感たるや想像するだけでゾクゾクしますよ」
依頼人は頬を紅潮させて言った。
正直キモい。
「そういう理由でしたらお断りします。どんな異世界であれ危険極まる邪竜を一匹放流する事はその異世界に住む人々の安寧を奪う事になる。確かに案内状の送り主は信頼すべき人物で何度か一緒に仕事をしたこともあります。とはいえあそこは人間専門の転生・転移屋ですから、私がこう言ってあなたにお断りをする事も織り込み済みで私へ送ったのだと思いますよ。ではさようなら。私もこれで中々忙しい身なのです」
渡はきっぱりとそう言い切った。
言われた日之出氏は絶望の表情を浮かべて椅子から飛び降りていきなり土下座してきた。
「すみません、すみません!自分の人生全てが上手くいかず自棄になっていたのは認めます。ですがあの謎を解くにはどうしてもあの夢の通りにドラゴンになるしかないと思い、こうしてやってきた訳です」
「お聞きしましょう。その夢と謎とは?」
渡は居住まいを正し、再び依頼人に話をするよう促した。
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