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2章 渡界人の日報

2-1 駆け落ちは異世界で③不審点と調査2

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「調べるって何を?別に不審な点は無いと思うけど。何にも聞かずに即決した事か?」

「それだけじゃない。こういう場合1人ではなく2人同時に来るものだよ。例え他社との比較をするにしたってね。別行動をとるというのはまずないと言っていい」

「だが現に2人はそう行動している。彼女の言う事が正しいとすればね」

「そうだ。この場合考えられるのは男の方が冷めているか、単にお互いに信用していないだけという可能性もある」

「それは言い過ぎじゃないか?彼女は真剣そのものだったし」

「第一ああいう女性を放っておく男はいない、と言いたいんだろう?今確実に分かっているのはこれが急を要する事でそれがのっぴきならない事情があるという事だけさ」

「ところでどこに行くつもりなんだ?まさか実家に行くのか?」

「いやまずはフム、ここにしよう。君、半日だけ高校生になる気はあるかい?」

「高校生に?」

「そうさ。K大学近くのこのナックへ大学の雰囲気を実際に見に来た高校生へと僕らは変化するのさ」

渡はそう言って試験管を小さく振る。

「最初に大学へ行かないのか」

「先に情報を集めたい。ただ依頼人とその恋人の実家は地元の名士だというからこの手の噂は広まっているだろう。これで僕らのような外部の人間が来たら誰もが警戒する。だが高校生の姿ならば進学希望の大学の雰囲気を見に来たとして周辺をうろついたり大学内を歩いていてもそれほど不自然ではないはずだ」

そう言うと渡は液体を飲み干すと制服姿の高校生へと変わる。

私も続いて赤い液体を飲むと、部屋の巨大な鏡には10数年前の在りし日の私が地元の高校の制服を着て立っていた。



渡界人謹製の特殊液で高校生へと姿を変えた私達は駅とバスを使い、我が国の有名私立大K大学へと向かった。

最寄り駅都市部から郊外へと行くに従い、商店よりも田畑が目立つようになり、その田畑を見下ろす丘の広大な敷地にその学び舎はあった。

この近辺で暇をつぶすとなれば、学生狙いのコンビニと私達が入ったファストフード店くらいしかない。

ここを選んだのには渡曰く

『こういう地域の恋愛絡みの噂話を聞くにはコンビニのフードコーナーやファストフード店に限る。こういう場所には暇な老人が集まって茶飲み話を大概しているからね』らしい。


事実昼時を少し回った店内は以外にも学生より近所の老人のたまり場となっていた。

私達は店の奥まった席に陣取ると近くにいた老人達の噂話が、それも我らが依頼人に関係する内容の下世話な話が聞こえてきた。

内容は彼氏の甲斐性の無い事が話題の中心で仮に旧家同士の因縁という物が無くとも親の立場からすれば娘を任せる気にはならない、といった昔ながらの老人の若者をこき下ろすいつもの口だった。

私は化石の様な考えを滔々とうとうと並べたてる時代遅れの人達の話を聞き流しながら期間限定のハンバーガーをかじりながら渡を見ると彼はアールグレイを飲みながらこの老人らの会話を熱心に聞き入っていた。

やがて飲み物を飲み終わると彼は私に小声で

「大学へ行ってみよう」

というと難しい顔をしながら店を後にした。

「一体何を見に行くんだ?君もあの老人共の噂話を聞いていたんだろ?そんなに深刻な会話だったとは思えないな」

「じゃあ、答え合わせと行こうか。彼らが何を言っていたか教えてくれ」

「彼氏君に甲斐性が無さすぎて結菜嬢は苦労するだろうってだけだろ?ああいうのを聞いていると僕はムカムカしてくるし、途中からはもう半分聞いてなかったよ」

「正確にどう言っていたかは覚えていない訳だね。彼らが3人の登場人物について話していたのをまるで見逃しているというのだな」

「3人だって?」

驚く私に渡は

「重要な所だけ聞かせよう。まず『ミワ君は、あれはあの親父さんでなくてもダメだ』そこは聞いたね」

私は頷く。

「では問題の部分だが『ミワちゃんは立つ瀬がないだろうよ。みーちゃんがああまでなったら』とね。言うまでもなく今の2つの会話は別に人間がそれぞれ言った事だ。だがそうなると話の中に出てきた『ミワ君』と『ミワちゃん』が依頼人かその恋人を指すのか、同じ人物をよしんば指すとしても最後の『みーちゃん』とは何者だろうか?なぜ我々の依頼人はこの人物について一言も言及しない?老人達の話の流れからすればこの人物は中心にいるように見える。見方によっては親ではなくこの人物から逃れる為の駆け落ちともとれる」

「だがそれでも大枠は変わらないぜ」

「そうだ。だがこれ以外にも不審な点は多い。まず彼氏の苗字が不明な点もそうだ。無論もう一緒になった気でいるともとれるが・・・少なくとも当初考えていたような単純な話ではない事は確かなようだ」

そう言うと私達は大学構内へと入っていった。
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