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1章無色透明な習作
14 勇者の伝記3 欠乏の国
しおりを挟む王城内は先程召喚された教会よりさらに薄暗かった。
それは教会にはあったガラスの類がここでは一切使われておらず、太陽光が入ってくる個所が限られているからだった。
その為昼でもろうそくが城内のあちこちにあり、その炎と光が一層闇を濃くして、こちらの感覚からすれば城というより廃屋にいる気分にさせてくる。
私は早くも来るべき場所を間違えたと思った。
「おお、救国の士が遂に現れたか」
私を見るなり50歳くらいの王様と思しき人物が厳かに宣った。
玉座の間には一応採光用のむき出しの窓があり、光に照らされた王の顔はやつれ目は絶望に瀕した人間のそれで血走っていた。
「はい」
私はその形相にそれだけ言うのが精一杯だった。
「早速ですが勇者よ、すぐに王都外れの森に向かって下され。あそこからの凄まじい瘴気と毒で作物は実らず、木や草は枯れ、家畜も育たぬ始末。国全体が飢えているのじゃ」
王がそう言うと脇から15歳くらいの若者が私にみすぼらしい鎧と剣、そして物凄い重さの袋を手渡した
「事情は分かりました。しかしこの装備は言っては何ですがあまりにもお粗末では?」
「我らが世界は悪神の腹心たる四天王により大地も水も空も、地中さえ腐っているのです。金属は今四天王ドライトリーによって金・銀以外は全く役に立たぬ始末。今の王国ではそれが手一杯です。しかし勇者よ、我らが望むのは四天王イーワンの毒を除く事これをまずお願いしたい。金銀あって小麦がないでは国は立ち行きませぬ。領民共は育たぬとわかっていながら種をまく以外無いのです。それ以外の事を知らないからです」
「私はここに来たばかりです。その目的地まで護衛を付けて頂けませんか?」
「もちろん。そこにいるガースを付ける」
「他には?」
私は装備を手渡してきた、この今にも餓死しそうな哀れな少年を見ながら言った。
「残念ながらそんな余裕は無い。敵と戦える者は既におらず、それ以外の者も自分のやる事で手いっぱいなのじゃ」
(やる事だと!?何をしたってただ餓死するのを待つだけだろうに)
そう思いながら私はガースと共に城を追い立てられるように出て、城下町へとやって来た。
そこには王の話から私の想像していた光景があった。
商店では明らかに腐っている穀物1束を荷車一杯の金貨と交換している。この国の経済は今物凄いインフレなのである。
「ガース、この金貨で買えるものなんかないんじゃないか」
「食べ物はね。他の物はまだ安いですよ」
彼の言ったとおりだった。
私は装備の不安から武器・防具屋に行った。
そこに並んでいるのは確かに今自分が身に着けている装備が最上と思える品ぞろえだった。
私は誰にも気づかれないようにため息をついて
「よし、その森へ行こう。一刻の猶予もないな」
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