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1章無色透明な習作
10魔法王国ヘドーロック
しおりを挟む「どんな世界なんだ?」
魔法と聞いて俄然興味をそそられた私はグッと前のめりになった。
「そう来ると思った。異世界マイダル・イージの中にあるヘドーロックという国の面積は小さいが魔法研究の盛んな国だ。そこの伯爵家の後妻の次男坊つまり4男として生まれる予定ではある。このヘドーロックという国は魔法至上主義の国で魔法さえ使えると判れば例え明日のパンにも事欠く極貧の浮浪者でも一夜にして貴族の仲間入りができる。その逆はお察しの通りさ」
「そういう所ならぜひ行ってみたいねえ」
「ヘドーロックの魔法は我々の世界でいう所の数学・物理学・科学・化学といったいわゆる理系分野に相当する。例え潜在的に魔力が高くても複雑な術式や呪文、各種の属性の影響や作用を理解しなければ魔法を使う事は出来ないのがあの世界の理なんだ。竜田はこの分野で相当の研究をしていたんだよ。だから彼には『そのまま研究を続けた方があなたの為にも世の中の為にもいいのではないですか』といったんだが『いや、もうダメです。研究を続けたくても奨学金を払わねばならないし、かといって自分のやって来た事を生かせるような職はねえ、渡さん私よりも運も実力もある連中が取ってしまうんですよ』とね。君、さっき上げた教科の中で得意だったものがあるかい?」
「無い」
私はがっかりしてうなだれた。私にとって魔法とは呪文を唱えたり、心に思い浮かべるだけで発動できる、そういう物だった。
だがそんな私を無視して渡は話を続ける
「魔法を学ぶ環境は家の中に魔導書があるし、魔法学院もある。『ただ、兄達とは齢が離れているので相続の関係上実家の魔導書や土地は兄に譲られるでしょうから機会はあまりないと考えた方が良いですね。魔法学院もこの世界の競争社会とは比べ物にならないくらいです。つまり成人し、学院を卒業する頃は身一つの素寒貧となっている場合が高い。迫りくる脅威の前に自活する手段を考えねばならないのはここと変わりませんよ』と、そう注意したんだ。人権という素晴らしい概念は我々の今の時代だから存在するのであって、魔法=人間といっても差し支えない価値観のあの国では名を上げる為の複雑な魔法の呪文や術式は基本的に一子相伝と言っていい。次男坊以下に残されるのは貴族の生まれという肩書程度しか残らない。その為家を出て自活の道を探らなければならないのだ。幸いヘドーロック各地には王侯貴族主催の魔法大会が開催されているので腕と頭脳に自信があれば出世の道や日銭には事欠かない。最も遍歴の騎士ならぬ遍歴の魔法使いは先に言った相続の関係上それなりに多いのでそこでもやはり競争というわけだが」
「そう言えば、脅威って何だい?」
私は彼がずっとこの世界に迫っているであろう脅威の内容を語らない事を不思議に思って尋ねた。
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