異世界転生請負人・渡界人～知られざる異世界転生の裏側公開します

1章無色透明な習作

４事故の真相

帰宅後スマホから渡界人の名を調べてみると彼はネット上に自身のホームページを作っていた。

それは『異世界転生・転移を真剣に考えている方要相談』の一文と面会用の登録フォームが乗せられただけのシンプル極まりないものだった。

私は震える指で必要事項を記入して『登録』のボタンを押した。

あんな裏の事情を見せられて失望ばかりだったがそれでも異世界への憧れはそれを上回っていた。

だが、私の所に表示された異世界は

『異世界ヤセボーン。不毛の大地を豊かな土地に。農業経験者歓迎』

『戦争で荒廃した国の立て直しにあなたの知識を活用しませんか。教職経験者優遇。異世界ジェサーナイト』

といったこの国が途上国へ行っている様々な援助の異世界版といった物しかなかった。

つまり私の心躍るような冒険やロマンスが期待できる異世界はないのだった。

軽い失望を味わいながら私は今日異世界に送られたという男と自分がどう違うのかという事をベッドで考える内に眠ってしまった。


翌日私達は昨日異世界ガムシャラットへ送られた勇者惟賀正義が一人で暮らしていたアパートへ向かっていた。

「残された家財道具をどう処分するか？僕か、転生者あるいは転移側が負担するのか？これはいつも現世側の人間との取り決めで揉めることが多くてね。今回はすんなりいった方さ」

「しかし家族が黙っちゃいないだろう」

「その通り。駆け出しの頃それで１度失敗してね。それ以来僕の送り込む候補者の第一は身よりのない天涯孤独の人間かさもなくば友人知人親類縁者全てと疎遠な者と決めているんだ。そしてそういう人間は意外と多いよ」

「あの試験管の液は一体何なのだ？君は錬金術師とか魔法使いなのか？」

「ああ、あれか。あれは色々な用途別に分かれた便利な物さ。例えば君が昨日見たあれはトラックを引き寄せる特殊液だ。普通の乗用車ではパワーが足りないか下手すると相手の運転手の方が重傷になりかねないからその辺りはまず心配のないトラックが選ばれるという訳なんだ。惟賀正義という男は異世界の神さえ辟易する疑り深い奴だったからね。これが一番奴にとって分かりやすい転移法だったのだ。最も撥ね飛ばされる痛みは軽減されないから、その点を注意はしたけれど聞かなかったよ」

「どうやって作っているんだい？」

「製法そのものはよくあるものだが、僕ら以外の人間に悪用されると非常に困る事になるから教えられないよ」

そんな話をしている内に目的のアパートに着いた。