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1章無色透明な習作
1奇怪な事故
しおりを挟む私が彼と出会ったのは全くの偶然―これを運命だとは思いたくないーだった。
その日生活の為の仕事(君達の想像する通りの説明する必要もない面白みのない奴だ)の帰り道交差点で信号待ちをしていた時だった。
今のご時世変な奴が車やバイクで突っ込んでこないとも限らない為私は歩道の奥まった所に立ってスマホで異世界転生小説を読みながら信号を待っていた。
その時私の斜め左に立っていた男が小さなビジネスバックから試験管、あの理科の実験で使うあの試験管を取り出すと男の目の前に立っていた会社員風の男に中身の液体を頭からぶっかけるのを私の左目は捉えていた。
目の前でひと悶着が起こる。
そうゲンナリした嫌な予感とは裏腹に手はその一部始終を撮影していた。
だが液体を掛けられた男は全く気にするでもなく目をギラギラさせながら前を見ていたのだった。
正直な所ほっとした気持ちで横断歩道を渡ろうと思った私の目の前で全く予期せぬ事態が起こった。
信号無視のトラックが一台突っ込んできたのだ。
それもそのまま一直線に私を含めた歩行者の集団に、ではなくその集団から離れて一人早足で歩くあの男をまるで狙いすましたかのように、車はあの液体を掛けられた男目掛けて不可解といえるクネクネした軌道でしかもブレーキを掛ければ確実に止まれるであろうスピードで男を撥ね飛ばした。
この時車のブレーキの、あの耳障りなキキキーという音はまるで起きなかった。
もっと驚いたのは吹き飛ばされた男が空中で煙の様にスッと消えてしまったことだった。
この異常事態に周りは騒然としていたがこの事件の首謀者といえる試験管の男は野次馬共をかき分けてサッサと歩道を渡り去って行った。
(あの液体が被害者を車に引き寄せたのではあるまいか)
そう思った私は男の後を出来得る限り慎重につけていった。
別に私の中にこの男を捕まえて警察に感謝されよう、あわよくばTV局のインタビュー等で一躍時の人に、などというクダラナイ承認欲求があった訳ではない。
何しろ異常な事件だからその内警察から情報提供を呼び掛ける看板やらがチラシが出るだろうから報奨金目当てで潜伏先を突き止めておいてやろうという極めて現実的な思考からだった。
男は私の良く知る道を通り、ついには私の住んでいるアパートの2階へと上がっていった。
こんな異常者が自分の目と鼻の先にいた事に驚き、かつ自分があの不可解な液体の犠牲になっていたかもしれないと思うとゾッと身震いがした。
慎重に辺りを見回し、その男が潜んでいる部屋の番号201の郵便受けには
『異世界関連総合コンサルタント 渡界人』
という目を疑う文字が並んでいた。
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