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「殿下…♡」
「ふふ、どうした?ローラ。そんなに甘えて」
「もう…このように殿下に触れても良いと思ったら、つい」
「そうだね。クリスとの婚約は破棄されたから」
「はいっ!ですから、今、私はリュード殿下の婚約者です」

クリスフォードの弟王子、スクリュード殿下の腕にしがみついて頬ずりをする。

「ローラと婚約破棄したということは、クリスはもう王を諦めたってことかな」

「はいっ!王太子の地位より、あの令嬢が大事だったようです」

頬を上気させ、可愛らしい顔でスクリュードに力説するリベローラを周囲の者は『悪女』だという。
彼女は一人の令嬢を人前で徹底的に痛めつけた。

夜会でクリスフォードに罪を着せられそうになったので告発内容を『検証した』だけだとリベローラは言う。

口で反論するより、再現させた方が分かりやすいでしょう?

抗議にやって来たエブリシアの両親にリベローラは笑って諭した。
どうにか見舞金を引き出そうという魂胆だったようだが、上手くは行かなかった。
王太子の婚約者に罪を着せようとしたことを逆に訴えると言われてしまえば。

『検証』の末、エブリシアがリベローラを陥れようとしたことは証明されている。
リベローラが本気になれば、あの程度では済まぬだろう事を周りに知らしめた。

エブリシアの親は悔しさからリベローラは『悪女』との噂をせっせとばら撒いている。

周りがどう評価しようとも、リベローラはスクリュードにはとっては愛しい婚約者。

スクリュードは顎を掬い口付けると、リベローラはふにゃりと気持ちよさそうに目を細める。

「ローラ。これからは僕を支えてくれる?」
「もちろんです」


王妃となれる者はリベローラしかいない。
国王と己自身を守る力と、周りに対抗する力を持つ彼女でなければ、潰される。

現王妃と、側妃たちも散々女の争いを繰り広げ、側室の筆頭だったスクリュードの母親は亡くなった。

スクリュードが生かされたのは男児だった事と、正妃の息子クリスフォードのスペアだったから。

ただのスペアが王太子レースに担ぎ上げられたのは、クリスフォードの出来が思いの外悪かった。
リベローラを婚約者に据え、無難に数年過ごせば国王になれたのに、それすら全うできないほどに。

クリスフォードは自らリベローラという盾と剣を捨て、己が盾になる為に後ろ盾も力もない令嬢との婚姻を望んだ。
時に、王妃を盾にしても生き延びねばならぬ為政者としての責任と自覚の無さを露呈した。


妃は強者でなければならない。
強者でなければ、この世界で生き延びることはできない。


スクリュードは眠ってしまったリベローラの頭を膝に置いて、毛先を弄んでいた。

強い上に美しいリベローラを手放したクリスフォードは愚かだと思う。

スクリュードはこの手に落ちてきた幸運を逃がすつもりはなかった。
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