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「~♪」
『随分機嫌がよろしいようですね』

王立図書館にて、日当たりの良い窓際の席でサリーシアは古語の書籍を開いていた。
そこへ、男が声をかけて来た。

魔導具の黒縁メガネで瞳の色を隠して地味を装うこの男は、この図書館の司書であり、古語の研究家でもある。

『思いの外上手く事が運んでおりまして』

『本当に離縁を…?』

『その為にここに通いつめましたから』

側には王妃の護衛も侍女もいる。
それでも際どい話ができるのは、古語を口語化した言語で話しているから。

といっても、古語の発音表記などの資料はなく、目の前の男が研究の末作り上げた物を、興味本位で習得したので、第三者に聞かれたとて内容を理解されることもない。

『あの方は自分の身体が役に立たないと知ってどうしたと思います?』

『役に立たない…、そんな状況になったのですか?』

『胸を掴まれ揉まれました』

「っな!?」

大きな声を上げた男は、はっとして「その見解は認められません」と護衛らに対していかにも古語の議論をしていた風を装ってみせた。

「解釈の相違でしょうね」

彼の即興の演技に付き合い、サリーシアは正面の席へ着席を促した。

『すいません…動揺しました』

『あら、動揺されるようなことが?私の想いをあっさり断った貴方が』

『そ、れは…』

言葉を濁す理由を知っている。
彼は知られているとは思っていないだろうが。

『こんなことバレたら国家反逆罪に問われますよ』

『大げさね。王に愛妾がいるのだから、私に情夫がいてもそこまで大げさにはならないでしょう?』

『…そうではなくて』

『あぁ、の方ですか』

婦人の茶会の重要性を理解していない殿方(国王を含め)に、彼女たちの噂話の伝達の速さを知られていなかったから上手くいった。

噂話とお喋り好きな婦人らを利用して、サリーシアは恋のを広めたのだ。

相手の男性の身体が、対象以外に反応しない『おまじない』を。

ある婦人は愛人から夫を取り戻すため。
ある婦人は自分から夫を遠ざけるため。

効果があったまじないは、婦人の間で静かに素早く広がり、二週間ほどでサリーシアが流した噂を、別の婦人から聞くまでになった。

元は、ある国の王家に伝わっていた秘薬が記載された古書と出会いから。

その古書には、王の浮気に嫉妬した妃が、特定の対象にしか身体が反応しなくなる秘薬を作り上げたこと、大まかなその秘薬の成分の記載があった事が運命的だった。

サリーシアは、この古書を読める古語の知識も、魔法薬学の知識もあったから。

うまく行けば、離縁できるかもしれないとその時思ったのだった。
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