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「まさかそんな事が」

公爵の話を鵜呑みにしたわけではない国王だが、破損された証拠を検分して、額を押さえた。
破損の為すべてを再生できたわけではないが、とぎれとぎれの映像と音声、破片を集めつなぎ合わせた姿絵でも内容は容易に理解できた。

「ご存知ではなかったのですか」
「…レンニアーネとの婚約破棄を希望していたのは聞いた。彼女がどれ程国母にふさわしくないか、挙げ連ねていたが」

レンニアーネの高い評価は彼女に買収された者が広めた捏造だとか、王太子の婚約者でありながら他の男と密会していたとか。

ありえないと知りつつ、王も一応調査をしたが、どれも息子の虚妄で、王太子を擁護する声も僅かにあったのは、それこそ息子によるだった。

最近になって側に侍らせ始めた男爵令嬢に心を移したせいで、色恋に狂っただけの暴走だろうと思っていた。
多感な時期ゆえの。

「婚約破棄するほどのことでもない。好いた女子は愛妾にすればいいと、言ったのだが…」

息子の目的が、ただの婚約破棄ではなく、それに伴う純潔の制約解除だったなんて思いもしなかった。

しかも寵愛対象が同性。
侍らせていた令嬢は只の駒で、側近らが本命だったようだ。

人の性癖をとやかく言うつもりもないが、種を残し後世に紡いでいくべき王家の血が絶たれる事を王は案じた。

公爵は先程渡された婚約破棄の証書を王に手渡す。
内容を読み、目を見開く王に公爵は何も言わなかった。

「よりにも寄って婚約破棄には精霊の契約を使ったのか。…王命でも取り消しのできぬように…」

こういう小賢しい知恵が働くから、王は息子を手放せなかった。時として思いがけぬ妙案を思いつき議会をあっと言わせていたこともあった。
だが、今はただ忌々しく思う。

「公爵、非公式だが謝罪を」
「いえ、陛下。この件については私は何も見なかった。
公には婚約破棄ではなく、王家からの円満な婚約解消という体を取っていただけたらば、望みもありません。
後は陛下の裁量にて対応をお願い致します」
「…うむ」

公爵は沈んだ顔の王を残し、謁見の場から辞した。

王家は、陛下は王太子の性癖を公にすることはないだろう。
お飾りの妃を娶らせ、養子を取るか…今から陛下が子を成すか。

どうなろうとも公爵は関わるつもりはない。

公爵自身も忙しくなる。
家の為と娘の未来の為。
新たな婚約相手を探さねばならない。
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