王太子妃は人質として帝国に差し出された

基本二度寝

文字の大きさ
上 下
12 / 12

十二

しおりを挟む
久々の住み慣れた城に戻ってきたジルグレイアを出迎えたのは、五つ歳の離れた兄リルレイアだった。

兄は為政者の素養があったにもかかわらず、身体の弱さを盾にして、武術にしか才能が無かった弟に王を継がせた。
兄には身分の低い想い人がいた。
彼女と添い遂げたいが為に弟に跡目を譲ったのだった。

肩書は無くとも兄は弟の為に持てる力を使い、帝国の王の補佐として、ジルグレイアを助けてくれている。

ジルグレイアが他国の占領地に居続けられたのも、兄が帝国くにを守ってくれていたからに他ならない。


「おかえり。準備は整っているから何時でも決行できるよ。ジルグ」

「只今戻りました。…兄上?」

帝国に着くと、ジルグレイアは先に愛馬から降り、エンフィアの下乗に手を貸していた所で、声をかけられた。

「兄上。決行とは一体…戦を仕掛けるのですか?」
「そんな物騒な話じゃないよ。めでたい方だよ」
「何か…ありましたか?建国祭も豊穣祭も時期が違いますし」

ジルグレイアの兄、リルレイアはニコニコと笑うだけ。
思い当たることがなく、思わず普段の癖でジルグレイアの目線がウェルズを探した。

「流石リルレイア様は仕事がお早い」

追い付いてきたウェルズが、馬上から会話に加わる。

「高い位置より失礼致しました」

素早く馬から降りると、馬丁に馬を預けてジルグレイアの側にやって来た。
リルレイアとウェルズは含んだ顔で頷き合う。

「ウェルズの報告があったから、ジルグの婚約者の発表は半年前に終わらせてある。半年経っているし最短で婚姻は可能にしておいた。準備は万端だ」

「は…?婚約…?婚姻?!」

兄の言葉に、ジルグレイアは目を白黒させた。

「ち、ちょっとまってください!一体なんの事ですか。勝手に」
「おや?話が違うのかな」

リルレイアは、弟と、弟の腕に抱かれきょとんとしているたエンフィアと、ウェルズの顔を順番に確認した。

「部屋に囲って毎夜同じ寝台で眠る仲になったと聞いたのだけれど?」

「それはっ…!」

ジルグレイアはウェルズをギロリと睨むが本人は、全く気に留めておらず、リルレイアにええと首肯していた。

「同衾しておいて責任もとらない弟に育てた覚えはないなぁ」
「ええ全くです。無責任この上ないですね」

「ちょ、ちょっと待ってください、婚約とはまさか」

ジルグレイアは腕にいたエンフィアに目を落とす。
パチパチと瞬きをするエンフィアには未だ状況がつかめずにいたのだけれど。

「エンフィア嬢。あぁ、貴女の自国の婚姻は無かったことになっているようなのであえてご令嬢として対応致しますが、祖国に帰られるおつもりでしょうか?」

初めて対面するジルグレイアによく似た面立ちの男性が、笑顔でエンフィアに質問を投げた。

「ええっと…」
「兄上」

ジルグレイアの静止などではリルレイアは止まらない。

「祖国に帰ったとしても、王太子の婚約者と周知されている貴女の次の嫁ぎ先を探すのは難しいでしょう。
実家の爵位は貴女の実弟が継ぐようですし、そうなれば家にも居づらくなるのでは。その点うちの弟ならば、若干異性の機微には疎いですが、愚直でこれと決めれば…」

立て板に水の如く、兄はつらつらと弟の売り込みを始めたのだった。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

不治の病の私とは離縁すると不倫真っ最中の夫が言ってきました。慰謝料、きっちりいただきますね?

カッパ
恋愛
不治の病が発覚した途端、夫であるラシュー侯爵が離縁を告げてきました。 元々冷え切っていた夫婦関係です、異存はありません。 ですが私はあなたの不貞を知っておりますので、ちゃあんと慰謝料はきっちり支払っていただきますね? それから・・・わたしの私物も勿論持っていきますから。

あなたへの恋心を消し去りました

恋愛
 私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。  私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。  だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。  今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。  彼は心は自由でいたい言っていた。  その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。  友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。  だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。 ※このお話はハッピーエンドではありません。 ※短いお話でサクサクと進めたいと思います。

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...