7 / 12
七
しおりを挟む
「ジルグ、ここはスペルミスです」
「あー…」
「少しお休みになられては?」
エンフィアはジルグレイアを気遣った。
赤い目をした皇帝は、隣に腰掛けるエンフィアを見下ろす。
何か言いたげだが、口を開く事はない。
彼の側に居るようになって、三月経過した。
ジルグレイアは陛下と呼ばれる事も敬称も嫌い、彼の愛称で呼ぶように命じられた。
初めこそ不敬だと断っていたが、意外に執拗い皇帝にエンフィアが折れた。
次に、常に側に居るようにと言われ、皇帝の仕事の手伝いをするようにもなった。
王国語の単語表記の間違いを見つけたのが始まりだった。
ジルグレイアは多国語を話すことには不自由していないが、書くのは苦手らしい。
本来ならば側近のウェルズが補助しているはずだが、今は側にはいない。
エンフィアを勝手に連れ出し、罪人たちに面通しさせたことや、エンフィアに対する嫌がらせがジルグレイアの信用を失わせた。
「それは、添い寝の誘いか?」
たっぷり時間をかけた後、ジルグレイアはエンフィアの腰に腕を回す。
「ち、がいます!」
三ヶ月前とは違う。
ジルグレイアはこうやってエンフィアを狼狽えさせる。
「俺の安眠を願うなら、腕の中に居てもらわねば」
ジルグレイアの加護は意識がある時は、部屋全体を囲うほどの範囲でも、睡眠や意識が無い状態ではベッドの大きさまで狭まるらしい。
初めこそ、ベッドの端と端で眠っていたはずなのに、この頃はエンフィアはジルグレイアの抱き枕になっていた。
収まり具合が丁度いい、らしい。
ジルグレイアを躱す言葉を探していると、扉を叩く音がした。
「…まったく。懲りないな」
ジルグレイアは並べられた食事を咀嚼しながら、顔を顰めていた。
「またですか?」
「あぁ」
エンフィアは毎回申し訳なく思う。
二人の前に並べられた食事だが、用意した者が部屋から退出すると、食べる直前で毎回席を入れ替えている。
初めて出された食事の際、鼻の聞くジルグレイアが同様の事をした。
「毎回懲りずに同じ毒とは。学習能力も無い」
文句を言いながらも、ジルグレイアは料理を完食した。
「幼少期の毒の訓練を思えば、この程度風味付けのようなものだ」
自国の毒なのでジルグレイアには耐性があると言う。
毎回、死には至らない程度の微量の毒を混ぜているらしい。
完全な嫌がらせだと判断して、ジルグレイアはウェルズを側に寄せ付けなくなった。
「…やはり、私が頂いたほうが」
「何度も言わせるな。フィアに死なれたら困るのはこっちだ」
「私にも、少しは毒の耐性はあります」
「…駄目だ。譲れない」
ジルグレイアはエンフィアを愛称で呼ぶ。
本人は許した覚えはないが、止めさせる術もない。
彼に守られている立場としても意見はし難い。
公の場ではないから、と己に言い訳をして、その実ジルグレイアに愛称で呼ばれることは悪くないと思っている。
立場が変わり、両親も、親しい友人ももう呼んでくれなくなった愛称だったから。
「あー…」
「少しお休みになられては?」
エンフィアはジルグレイアを気遣った。
赤い目をした皇帝は、隣に腰掛けるエンフィアを見下ろす。
何か言いたげだが、口を開く事はない。
彼の側に居るようになって、三月経過した。
ジルグレイアは陛下と呼ばれる事も敬称も嫌い、彼の愛称で呼ぶように命じられた。
初めこそ不敬だと断っていたが、意外に執拗い皇帝にエンフィアが折れた。
次に、常に側に居るようにと言われ、皇帝の仕事の手伝いをするようにもなった。
王国語の単語表記の間違いを見つけたのが始まりだった。
ジルグレイアは多国語を話すことには不自由していないが、書くのは苦手らしい。
本来ならば側近のウェルズが補助しているはずだが、今は側にはいない。
エンフィアを勝手に連れ出し、罪人たちに面通しさせたことや、エンフィアに対する嫌がらせがジルグレイアの信用を失わせた。
「それは、添い寝の誘いか?」
たっぷり時間をかけた後、ジルグレイアはエンフィアの腰に腕を回す。
「ち、がいます!」
三ヶ月前とは違う。
ジルグレイアはこうやってエンフィアを狼狽えさせる。
「俺の安眠を願うなら、腕の中に居てもらわねば」
ジルグレイアの加護は意識がある時は、部屋全体を囲うほどの範囲でも、睡眠や意識が無い状態ではベッドの大きさまで狭まるらしい。
初めこそ、ベッドの端と端で眠っていたはずなのに、この頃はエンフィアはジルグレイアの抱き枕になっていた。
収まり具合が丁度いい、らしい。
ジルグレイアを躱す言葉を探していると、扉を叩く音がした。
「…まったく。懲りないな」
ジルグレイアは並べられた食事を咀嚼しながら、顔を顰めていた。
「またですか?」
「あぁ」
エンフィアは毎回申し訳なく思う。
二人の前に並べられた食事だが、用意した者が部屋から退出すると、食べる直前で毎回席を入れ替えている。
初めて出された食事の際、鼻の聞くジルグレイアが同様の事をした。
「毎回懲りずに同じ毒とは。学習能力も無い」
文句を言いながらも、ジルグレイアは料理を完食した。
「幼少期の毒の訓練を思えば、この程度風味付けのようなものだ」
自国の毒なのでジルグレイアには耐性があると言う。
毎回、死には至らない程度の微量の毒を混ぜているらしい。
完全な嫌がらせだと判断して、ジルグレイアはウェルズを側に寄せ付けなくなった。
「…やはり、私が頂いたほうが」
「何度も言わせるな。フィアに死なれたら困るのはこっちだ」
「私にも、少しは毒の耐性はあります」
「…駄目だ。譲れない」
ジルグレイアはエンフィアを愛称で呼ぶ。
本人は許した覚えはないが、止めさせる術もない。
彼に守られている立場としても意見はし難い。
公の場ではないから、と己に言い訳をして、その実ジルグレイアに愛称で呼ばれることは悪くないと思っている。
立場が変わり、両親も、親しい友人ももう呼んでくれなくなった愛称だったから。
72
お気に入りに追加
1,003
あなたにおすすめの小説

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)


不治の病の私とは離縁すると不倫真っ最中の夫が言ってきました。慰謝料、きっちりいただきますね?
カッパ
恋愛
不治の病が発覚した途端、夫であるラシュー侯爵が離縁を告げてきました。
元々冷え切っていた夫婦関係です、異存はありません。
ですが私はあなたの不貞を知っておりますので、ちゃあんと慰謝料はきっちり支払っていただきますね?
それから・・・わたしの私物も勿論持っていきますから。

あなたへの恋心を消し去りました
鍋
恋愛
私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。
私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。
だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。
今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。
彼は心は自由でいたい言っていた。
その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。
友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。
だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。
※このお話はハッピーエンドではありません。
※短いお話でサクサクと進めたいと思います。


なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。

邪魔しないので、ほっておいてください。
りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。
お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。
義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。
実の娘よりもかわいがっているぐらいです。
幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。
でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。
階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。
悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。
それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる