能力持ちの若き夫人は、冷遇夫から去る

基本二度寝

文字の大きさ
上 下
45 / 46

番外 報告

しおりを挟む
「第三国との和平協定などと言って裏では軍需品や兵器の契約か。和平が聞いて呆れる」

某国、諜報局局長室。

手書きされた書類を読み込んで局長はふぅと息を吐いた。

この国と隣国とは昔から友好とは程遠い関係にあった。
この国を仮想敵として、隣国はよくうちと小競り合いを繰り返している。

「まぁ、この程度の兵器でうちの軍を一小隊でも退けられたら良い方だな」

この国の軍隊には一部隊一人は獣人の血を引く兵を入れてある。
彼らの鼻はよく利く。
敵の斥候ですら鼻と足だけで捕獲できる身体能力を持つ。
そして目の前のこの男もまた。

「で、友よ。うちの部下アレンの報告はこれだけなのだけれど、他に?」

飛んでくる質問に国際医療機関に所属する医師は、天を仰ぎ「特にねぇな」と答えた。

ふーん。

信用していないような相槌。
嘘はそのよく利く鼻が嗅ぎ分けるのだから、意味がない。

「しいて言えば、女を拾って帰ったくらいか」
「その女、敵国の」
「それはねぇな」

クエッカの曽祖父の代まで遡って調べたが隣国の血は混じっていない。
調べる過程で知ったが、気の毒なことに彼女には友人と呼べる人物もいなかった。

「アレンを見つけたのならば…獣人の血かはたまた特殊なスキル持ちか…、使えそうか?」

「どうだろうな」

「能力をみて、判断するか」

「性格が諜報向きじゃねぇな」

「ほう?」

「黙ってコソコソできるような奴じゃない。正面切って真っ直ぐ相手の目を見るんだ。隠し事など見透かすみたいに」

「ふん。それでアイツは捕まったのか」

面白くなさそうに、諜報局の局長は背凭れに凭れた。
手塩にかけた息子のような部下を取られて拗ねているのだ。
姑のようにどうにか嫁をいびりたくて仕方がないのだろう。

「いずれ紹介しにくるだろ。苛めるなよ?息子アレンに嫌われるぞ」

「別に、嫌われても、って息子じゃねぇよ。拾っただけで」

無いはずなのだが、局長の頭の上の獣耳と、背に獣の尾がしょんぼりと垂れているように見える。

獣人は敵には厳しいが、懐に入れた身内には甘くなる。
局長にもその気はあった。

「そろそろ子離れしないとな」

子供のようにぷいっと顔を横に向ける局長に笑いがこみ上げる。
部下には悪魔と言われているのだ、この男。これで。

まぁ…お嬢さんならこの舅も陥落させるだろうな。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

誰にも言えないあなたへ

天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。 マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。 年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

あらまあ夫人の優しい復讐

藍田ひびき
恋愛
温厚で心優しい女性と評判のカタリナ・ハイムゼート男爵令嬢。彼女はいつもにこやかに微笑み、口癖は「あらまあ」である。 そんなカタリナは結婚したその夜に、夫マリウスから「君を愛する事は無い。俺にはアメリアという愛する女性がいるんだ」と告げられる。 一方的に結ばされた契約結婚は二年間。いつも通り「あらまあ」と口にしながらも、カタリナには思惑があるようで――? ※ なろうにも投稿しています。

完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。 『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』 『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』 公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。 もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。 屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは…… *表紙絵自作

【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】

青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。 婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。 そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。 それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。 ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。 *別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。 *約2万字の短編です。 *完結しています。 *11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。

ただ誰かにとって必要な存在になりたかった

風見ゆうみ
恋愛
19歳になった伯爵令嬢の私、ラノア・ナンルーは同じく伯爵家の当主ビューホ・トライトと結婚した。 その日の夜、ビューホ様はこう言った。 「俺には小さい頃から思い合っている平民のフィナという人がいる。俺とフィナの間に君が入る隙はない。彼女の事は母上も気に入っているんだ。だから君はお飾りの妻だ。特に何もしなくていい。それから、フィナを君の侍女にするから」 家族に疎まれて育った私には、酷い仕打ちを受けるのは当たり前になりすぎていて、どう反応する事が正しいのかわからなかった。 結婚した初日から私は自分が望んでいた様な妻ではなく、お飾りの妻になった。 お飾りの妻でいい。 私を必要としてくれるなら…。 一度はそう思った私だったけれど、とあるきっかけで、公爵令息と知り合う事になり、状況は一変! こんな人に必要とされても意味がないと感じた私は離縁を決意する。 ※「ただ誰かに必要とされたかった」から、タイトルを変更致しました。 ※クズが多いです。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※独特の世界観です。 ※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

政略結婚で「新興国の王女のくせに」と馬鹿にされたので反撃します

nanahi
恋愛
政略結婚により新興国クリューガーから因習漂う隣国に嫁いだ王女イーリス。王宮に上がったその日から「子爵上がりの王が作った新興国風情が」と揶揄される。さらに側妃の陰謀で王との夜も邪魔され続け、次第に身の危険を感じるようになる。 イーリスが邪険にされる理由は父が王と交わした婚姻の条件にあった。財政難で困窮している隣国の王は巨万の富を得たイーリスの父の財に目をつけ、婚姻を打診してきたのだ。資金援助と引き換えに父が提示した条件がこれだ。 「娘イーリスが王子を産んだ場合、その子を王太子とすること」 すでに二人の側妃の間にそれぞれ王子がいるにも関わらずだ。こうしてイーリスの輿入れは王宮に波乱をもたらすことになる。

おさななじみの次期公爵に「あなたを愛するつもりはない」と言われるままにしたら挙動不審です

あなはにす
恋愛
伯爵令嬢セリアは、侯爵に嫁いだ姉にマウントをとられる日々。会えなくなった幼馴染とのあたたかい日々を心に過ごしていた。ある日、婚活のための夜会に参加し、得意のピアノを披露すると、幼馴染と再会し、次の日には公爵の幼馴染に求婚されることに。しかし、幼馴染には「あなたを愛するつもりはない」と言われ、相手の提示するルーティーンをただただこなす日々が始まり……?

処理中です...