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婚約解消から半年。
ビリョークは屋敷に篭り、ぼんやりと過ごしていた。
伯爵家に押しかけて、すでに亡くなっている令嬢の亡霊を探すために、騎士団員まで動かしたことが問題となって謹慎を言い渡されている。
ちなみに、それを認めた騎士団長は降格になった。
ビリョークの訴えを聞いて、まだララージャが生きていると信じたかったようだった。
しかし、ビリョークもいつまでも謹慎というわけにも行かない。
謹慎明けには早く次の婚約者を探せと、父親にせっつかれ、ビリョークはしぶしぶ適当な夜会に顔を出すことにした。
侯爵当主である父が、息子の相手を探すことはない。
侯爵自身の女運のなさを自覚しているため、「伴侶は自分で選べ」と幼い頃から言われている。
そうして選んだはずのヒルデだったのだが、ニコリとも笑わぬ女を選んだことを悔いた。
顔の造作が良くとも、あそこまで無表情な女だとは思わなくて、対比となるような令嬢が現れ心はあっさり持って行かれた。
「ララージャのような女がいたら…」
居ないとわかってもまだ、ララージャの笑顔が思い出されて苦しくなる。
「ほら、いつまでもぐじぐじするな。行くぞ」
父に伴われて、夜会のために登城したビリョークは、会場を歩き回り、目を奪われた。
「ララージャ!!」
ララージャの姿を見つけ、ビリョークは走り出した。
驚いた顔をした彼女の前に男がさっと立ち、ララージャを背に隠す。
「ララージャ!私だよ!婚約者のビリョークだ」
男の影に隠れたままの彼女は顔を出さなかった。
彼女を守るようにして立つ男が、それを認めないのだ。
「…俺の婚約者に何か用か」
「誰だお前は!見たこともない顔だ」
「まぁ…あまりこのような催しに出ることはないからな。今回は婚約の報告のようなものだし」
「貴様に用ははない。後ろの令嬢を出せ」
「断る」
憤慨したビリョークが、男に詰め寄るのを侯爵が止めた。
「辺境伯のご子息。息子が無礼をいたしました。少々混乱しているようで」
「父上!なぜ止めるのです!ララージャがそこに」
ビリョークが何度も『ララージャ』の名を口にして、ざわつくのは父親世代の貴族で、他の者は何を騒いでいるのかと興味津々で彼らを見守っている。
「しっかりしろ!辺境伯の子息グリフォリオン殿の婚約者はヒルデ嬢だ。ララージャなどではない!」
「ヒルデとララージャを見間違えるわけがない!」
ビリョークの叫びに、グリフォリオンの背から姿を現したのは…
「…ヒルデ、嬢?」
「お久しぶりです。侯爵様。侯爵子息様」
表情のない元婚約者が、ビリョークに挨拶の礼をする。
「愚息が騒いで申し訳ない。ヒルデ嬢、婚約おめでとう」
「有難うございます」
ビリョークは混乱していた。
確かに、先ほど視界に入ったのはララージャだったはずなのに。
「では、我々は」
この場を去ろうとするグリフォリオンに腰を引き寄せられ、ヒルデは背の高い婚約者を見上げて笑った。
侯爵がはっと息を呑む。
過去に焦がれた少女と重なり…。
「ララージャ!やはりっ!ララージャだったんだな!」
父の手を振り切り飛び出したビリョークは、勢いのあまり蹴躓いて無様に床に転がった。
「ヒルデに近づくな」
見下ろす眼光に怯みながらも、ビリョークは男の隣の令嬢に目を向ける。
此方を見下ろす顔は間違いなくヒルデなのだが、うっとりと頬を染め婚約者を見上げる彼女は、まるでララージャのようで…。
「ララージャ……いや、ヒルデ…?どう、なってるんだ…」
二人が会場から去るその背を、ビリョークは床に張り付いたまま、じっと見つめていた。
ビリョークは屋敷に篭り、ぼんやりと過ごしていた。
伯爵家に押しかけて、すでに亡くなっている令嬢の亡霊を探すために、騎士団員まで動かしたことが問題となって謹慎を言い渡されている。
ちなみに、それを認めた騎士団長は降格になった。
ビリョークの訴えを聞いて、まだララージャが生きていると信じたかったようだった。
しかし、ビリョークもいつまでも謹慎というわけにも行かない。
謹慎明けには早く次の婚約者を探せと、父親にせっつかれ、ビリョークはしぶしぶ適当な夜会に顔を出すことにした。
侯爵当主である父が、息子の相手を探すことはない。
侯爵自身の女運のなさを自覚しているため、「伴侶は自分で選べ」と幼い頃から言われている。
そうして選んだはずのヒルデだったのだが、ニコリとも笑わぬ女を選んだことを悔いた。
顔の造作が良くとも、あそこまで無表情な女だとは思わなくて、対比となるような令嬢が現れ心はあっさり持って行かれた。
「ララージャのような女がいたら…」
居ないとわかってもまだ、ララージャの笑顔が思い出されて苦しくなる。
「ほら、いつまでもぐじぐじするな。行くぞ」
父に伴われて、夜会のために登城したビリョークは、会場を歩き回り、目を奪われた。
「ララージャ!!」
ララージャの姿を見つけ、ビリョークは走り出した。
驚いた顔をした彼女の前に男がさっと立ち、ララージャを背に隠す。
「ララージャ!私だよ!婚約者のビリョークだ」
男の影に隠れたままの彼女は顔を出さなかった。
彼女を守るようにして立つ男が、それを認めないのだ。
「…俺の婚約者に何か用か」
「誰だお前は!見たこともない顔だ」
「まぁ…あまりこのような催しに出ることはないからな。今回は婚約の報告のようなものだし」
「貴様に用ははない。後ろの令嬢を出せ」
「断る」
憤慨したビリョークが、男に詰め寄るのを侯爵が止めた。
「辺境伯のご子息。息子が無礼をいたしました。少々混乱しているようで」
「父上!なぜ止めるのです!ララージャがそこに」
ビリョークが何度も『ララージャ』の名を口にして、ざわつくのは父親世代の貴族で、他の者は何を騒いでいるのかと興味津々で彼らを見守っている。
「しっかりしろ!辺境伯の子息グリフォリオン殿の婚約者はヒルデ嬢だ。ララージャなどではない!」
「ヒルデとララージャを見間違えるわけがない!」
ビリョークの叫びに、グリフォリオンの背から姿を現したのは…
「…ヒルデ、嬢?」
「お久しぶりです。侯爵様。侯爵子息様」
表情のない元婚約者が、ビリョークに挨拶の礼をする。
「愚息が騒いで申し訳ない。ヒルデ嬢、婚約おめでとう」
「有難うございます」
ビリョークは混乱していた。
確かに、先ほど視界に入ったのはララージャだったはずなのに。
「では、我々は」
この場を去ろうとするグリフォリオンに腰を引き寄せられ、ヒルデは背の高い婚約者を見上げて笑った。
侯爵がはっと息を呑む。
過去に焦がれた少女と重なり…。
「ララージャ!やはりっ!ララージャだったんだな!」
父の手を振り切り飛び出したビリョークは、勢いのあまり蹴躓いて無様に床に転がった。
「ヒルデに近づくな」
見下ろす眼光に怯みながらも、ビリョークは男の隣の令嬢に目を向ける。
此方を見下ろす顔は間違いなくヒルデなのだが、うっとりと頬を染め婚約者を見上げる彼女は、まるでララージャのようで…。
「ララージャ……いや、ヒルデ…?どう、なってるんだ…」
二人が会場から去るその背を、ビリョークは床に張り付いたまま、じっと見つめていた。
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