上 下
3 / 3

三 アンティーナ

しおりを挟む
「そんなわけで、王太子殿下候補から外れたの」
「ふーん」

屋敷の庭に面した窓を開いて、外で作業する男にあらましを説明した。
婚約者候補を下ろされた令嬢を慰めるより花の葉の裏を丁寧に確認するほうが大事なようだ。

「だからね。私と結婚してくれない?」
「…他に男なんていっぱいいるだろ」

アンティーナの方に一度も顔を向けず、土を弄る男はプロポーズを聞き流した。

「いないから困ってるのよ!長年婚約者候補なんてやってたから、めぼしい子息はもう残ってないの!しかも同じように候補だった令嬢は他にも大勢いるのよ。競争率爆上げ中よ」

項垂れれば、ぽんぽんと頭を叩いて慰めてくれた。
泥がつかないよう、手の甲で軽く叩く。
頭だったり、頬だったり、その場所は様々だけれど、昔から言葉少ない彼流の慰め方だ。

「ねぇ、だめ?」
「…おれはただの庭師だ。お貴族様なんて柄じゃない」
「貴方は今まで通り庭弄りしてくれてたら良いの。当主は私が継ぐし。時々、領地に一緒に行って、農地開拓や改善を手伝ってくれたら良いけど…」

「ここの家の令嬢は手近で済ませようとしてねぇか?あのお転婆オデッサも担当の執事を恋人にしていたしなぁ」

「あぁ…そうね…」

オデッサの輿入れに彼は付いて行った。
妹が今幸せなのかどうかはわからない。
知るすべもない。

「まぁ…領地の改善のためって事なら…力になってやるよ」

仕方がないと男は息を吐いた。

「魔法使いだと思ったの。貴方の事を」

アンティーナは男の手を取った。
ごつごつした男の人の手だ。

「こんな無骨な指が、素敵な庭を作り上げる貴方だから結婚したいの」

真っ直ぐな言葉に、男は赤面した。

「…後悔すんなよ」

アンティーナは窓枠に足を掛け飛び出し、男に抱きついた。

しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

妹の事が好きだと冗談を言った王太子殿下。妹は王太子殿下が欲しいと言っていたし、本当に冗談なの?

田太 優
恋愛
婚約者である王太子殿下から妹のことが好きだったと言われ、婚約破棄を告げられた。 受け入れた私に焦ったのか、王太子殿下は冗談だと言った。 妹は昔から王太子殿下の婚約者になりたいと望んでいた。 今でもまだその気持ちがあるようだし、王太子殿下の言葉を信じていいのだろうか。 …そもそも冗談でも言って良いことと悪いことがある。 だから私は婚約破棄を受け入れた。 それなのに必死になる王太子殿下。

わたしを捨てた騎士様の末路

夜桜
恋愛
 令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。  ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。 ※連載

【完結】「『王太子を呼べ!』と国王陛下が言っています。国王陛下は激オコです」

まほりろ
恋愛
王命で決められた公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢との婚約を発表した王太子に、国王陛下が激オコです。 ※他サイトにも投稿しています。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 小説家になろうで日間総合ランキング3位まで上がった作品です。

この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。

サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――

【短編】捨てられた公爵令嬢ですが今さら謝られても「もう遅い」

みねバイヤーン
恋愛
「すまなかった、ヤシュナ。この通りだ、どうか王都に戻って助けてくれないか」 ザイード第一王子が、婚約破棄して捨てた公爵家令嬢ヤシュナに深々と頭を垂れた。 「お断りします。あなた方が私に対して行った数々の仕打ち、決して許すことはありません。今さら謝ったところで、もう遅い。ばーーーーーか」 王家と四大公爵の子女は、王国を守る御神体を毎日清める義務がある。ところが聖女ベルが現れたときから、朝の清めはヤシュナと弟のカルルクのみが行なっている。務めを果たさず、自分を使い潰す気の王家にヤシュナは切れた。王家に対するざまぁの準備は着々と進んでいる。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

欲に負けた婚約者は代償を払う

京月
恋愛
偶然通りかかった空き教室。 そこにいたのは親友のシレラと私の婚約者のベルグだった。 「シレラ、ず、ずっと前から…好きでした」 気が付くと私はゼン先生の前にいた。 起きたことが理解できず、涙を流す私を優しく包み込んだゼン先生は膝をつく。 「私と結婚を前提に付き合ってはもらえないだろうか?」

【完結】誠意を見せることのなかった彼

野村にれ
恋愛
婚約者を愛していた侯爵令嬢。しかし、結婚できないと婚約を白紙にされてしまう。 無気力になってしまった彼女は消えた。 婚約者だった伯爵令息は、新たな愛を見付けたとされるが、それは新たな愛なのか?

処理中です...