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三 アンティーナ
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「そんなわけで、王太子殿下候補から外れたの」
「ふーん」
屋敷の庭に面した窓を開いて、外で作業する男にあらましを説明した。
婚約者候補を下ろされた令嬢を慰めるより花の葉の裏を丁寧に確認するほうが大事なようだ。
「だからね。私と結婚してくれない?」
「…他に男なんていっぱいいるだろ」
アンティーナの方に一度も顔を向けず、土を弄る男はプロポーズを聞き流した。
「いないから困ってるのよ!長年婚約者候補なんてやってたから、めぼしい子息はもう残ってないの!しかも同じように候補だった令嬢は他にも大勢いるのよ。競争率爆上げ中よ」
項垂れれば、ぽんぽんと頭を叩いて慰めてくれた。
泥がつかないよう、手の甲で軽く叩く。
頭だったり、頬だったり、その場所は様々だけれど、昔から言葉少ない彼流の慰め方だ。
「ねぇ、だめ?」
「…おれはただの庭師だ。お貴族様なんて柄じゃない」
「貴方は今まで通り庭弄りしてくれてたら良いの。当主は私が継ぐし。時々、領地に一緒に行って、農地開拓や改善を手伝ってくれたら良いけど…」
「ここの家の令嬢は手近で済ませようとしてねぇか?あのお転婆も担当の執事を恋人にしていたしなぁ」
「あぁ…そうね…」
オデッサの輿入れに彼は付いて行った。
妹が今幸せなのかどうかはわからない。
知るすべもない。
「まぁ…領地の改善のためって事なら…力になってやるよ」
仕方がないと男は息を吐いた。
「魔法使いだと思ったの。貴方の事を」
アンティーナは男の手を取った。
ごつごつした男の人の手だ。
「こんな無骨な指が、素敵な庭を作り上げる貴方だから結婚したいの」
真っ直ぐな言葉に、男は赤面した。
「…後悔すんなよ」
アンティーナは窓枠に足を掛け飛び出し、男に抱きついた。
「ふーん」
屋敷の庭に面した窓を開いて、外で作業する男にあらましを説明した。
婚約者候補を下ろされた令嬢を慰めるより花の葉の裏を丁寧に確認するほうが大事なようだ。
「だからね。私と結婚してくれない?」
「…他に男なんていっぱいいるだろ」
アンティーナの方に一度も顔を向けず、土を弄る男はプロポーズを聞き流した。
「いないから困ってるのよ!長年婚約者候補なんてやってたから、めぼしい子息はもう残ってないの!しかも同じように候補だった令嬢は他にも大勢いるのよ。競争率爆上げ中よ」
項垂れれば、ぽんぽんと頭を叩いて慰めてくれた。
泥がつかないよう、手の甲で軽く叩く。
頭だったり、頬だったり、その場所は様々だけれど、昔から言葉少ない彼流の慰め方だ。
「ねぇ、だめ?」
「…おれはただの庭師だ。お貴族様なんて柄じゃない」
「貴方は今まで通り庭弄りしてくれてたら良いの。当主は私が継ぐし。時々、領地に一緒に行って、農地開拓や改善を手伝ってくれたら良いけど…」
「ここの家の令嬢は手近で済ませようとしてねぇか?あのお転婆も担当の執事を恋人にしていたしなぁ」
「あぁ…そうね…」
オデッサの輿入れに彼は付いて行った。
妹が今幸せなのかどうかはわからない。
知るすべもない。
「まぁ…領地の改善のためって事なら…力になってやるよ」
仕方がないと男は息を吐いた。
「魔法使いだと思ったの。貴方の事を」
アンティーナは男の手を取った。
ごつごつした男の人の手だ。
「こんな無骨な指が、素敵な庭を作り上げる貴方だから結婚したいの」
真っ直ぐな言葉に、男は赤面した。
「…後悔すんなよ」
アンティーナは窓枠に足を掛け飛び出し、男に抱きついた。
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