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七
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(酷なことを…)
アドバンズに期待を抱かせて突き落とそうとする妻の思惑が見えたが、ウェルスタは何も言わなかった。
言えるはずもなかった。
アドバンズの部屋を出たウェルスタは、己の妻に謝罪した。
「なんの謝罪ですか?」
ウェルスタはニーディアに謝罪せねばならぬ事だらけだった。
「一つは、ディアを…王家に縛り付けてしまった事への」
今はもう記憶にもないらしい甥が幼かった頃に、「ニーディアは妖精の愛し子だ」と意味もわからず触れ回ったせいでニーディアは王家から逃げられなくなった。
この国の王族には代々続く呪いがあった。
「王家の血を引く者は、『妖精の加護を持つ者』としか子が成せない」
「そうですね。現状、私しか居ないようですね。見つけ出せる術もありませんし」
「アドバンズが妖精を視る力を失わなければ他にも居たのかもしれないが」
国王も王妃もアドバンズに甘く、婚約者にニーディアという愛し子を得ただけで満足した。
彼らはアドバンズを後継者と決めていたのだろう。後に婚約破棄を起こし、王太子を降ろされるなど思いもせずに。
王太子となった第二王子の妃は妖精の愛し子ではない為、二人の間に子は出来ない。
議会からも第二王子を王太子にと移行する際に、ニーディアをあてがおうとしたが、王子本人とニーディアが拒絶した。
第二王子は長く婚約関係にあった令嬢との婚姻を望んだ。
それでも、後継者は必要だと当人たちの意思を無視して第二王子の相手に推し進めようとした貴族らは、妖精達の怒りに触れ、アドバンズと同様に眠らされてしまった。
アドバンズと違い貴族らは、ニーディアがウェルスタと婚約し、結婚後結ばれると目覚めた。
「もう一つは…子を養子にせねばならなかったこと」
ニーディアとウェルスタの第一子は、王太子夫妻の養子になる事は決められていた。
後継問題を考えれば致し方ないと理解している。
「それについては王太子殿下よりお言葉を頂いております」
『取り上げるつもりはない。子には父と母が二人づついるのだと教え育てよう』
「会いたい時には会えていますし、王太子妃殿下とよくお会いしているのですよ」
子と戯れながら、二人して夫への愚痴からの惚気話に花を咲かせている事を知らないのだろう。
「後は…先程のアドバンズの暴言も、だな…」
「暴言…?ああ…ウェルに擦り寄った淫売、ですか?」
「すまない。本当に」
心底申し訳なさそうな夫の姿に、ニーディアは二人きりの時にしか見せない艶めかしい顔で笑う。
「それに関しては事実なので。
あの方に婚約破棄を言いつけられてから、どうやってウェルに近づこうか、籠絡出来まいかとそんなことばかり考えておりましたから」
内緒ですよ?と目を細める妻に、ウェルスタは白旗を上げた。
アドバンズに期待を抱かせて突き落とそうとする妻の思惑が見えたが、ウェルスタは何も言わなかった。
言えるはずもなかった。
アドバンズの部屋を出たウェルスタは、己の妻に謝罪した。
「なんの謝罪ですか?」
ウェルスタはニーディアに謝罪せねばならぬ事だらけだった。
「一つは、ディアを…王家に縛り付けてしまった事への」
今はもう記憶にもないらしい甥が幼かった頃に、「ニーディアは妖精の愛し子だ」と意味もわからず触れ回ったせいでニーディアは王家から逃げられなくなった。
この国の王族には代々続く呪いがあった。
「王家の血を引く者は、『妖精の加護を持つ者』としか子が成せない」
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「アドバンズが妖精を視る力を失わなければ他にも居たのかもしれないが」
国王も王妃もアドバンズに甘く、婚約者にニーディアという愛し子を得ただけで満足した。
彼らはアドバンズを後継者と決めていたのだろう。後に婚約破棄を起こし、王太子を降ろされるなど思いもせずに。
王太子となった第二王子の妃は妖精の愛し子ではない為、二人の間に子は出来ない。
議会からも第二王子を王太子にと移行する際に、ニーディアをあてがおうとしたが、王子本人とニーディアが拒絶した。
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それでも、後継者は必要だと当人たちの意思を無視して第二王子の相手に推し進めようとした貴族らは、妖精達の怒りに触れ、アドバンズと同様に眠らされてしまった。
アドバンズと違い貴族らは、ニーディアがウェルスタと婚約し、結婚後結ばれると目覚めた。
「もう一つは…子を養子にせねばならなかったこと」
ニーディアとウェルスタの第一子は、王太子夫妻の養子になる事は決められていた。
後継問題を考えれば致し方ないと理解している。
「それについては王太子殿下よりお言葉を頂いております」
『取り上げるつもりはない。子には父と母が二人づついるのだと教え育てよう』
「会いたい時には会えていますし、王太子妃殿下とよくお会いしているのですよ」
子と戯れながら、二人して夫への愚痴からの惚気話に花を咲かせている事を知らないのだろう。
「後は…先程のアドバンズの暴言も、だな…」
「暴言…?ああ…ウェルに擦り寄った淫売、ですか?」
「すまない。本当に」
心底申し訳なさそうな夫の姿に、ニーディアは二人きりの時にしか見せない艶めかしい顔で笑う。
「それに関しては事実なので。
あの方に婚約破棄を言いつけられてから、どうやってウェルに近づこうか、籠絡出来まいかとそんなことばかり考えておりましたから」
内緒ですよ?と目を細める妻に、ウェルスタは白旗を上げた。
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