眠りから目覚めた王太子は

基本二度寝

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「ニーディアを、ニーディアを呼んでくれ」
「アドバンズ?」

こんな時、いつも側にニーディアがいた。
迷いが生じた時には彼女の助言があった。
彼女が取捨選択したものを簡潔に一長一短を上げ、提示された中から、アドバンズは選んで来たのだ。

ウェルスタが言う、王領で自由に過ごす、他にも何か選択があるのではないか。

他の選択肢も並べてもらわねば困る。
選択肢がなければアドバンズが選べないではないか。

「アドバンズ。ディアは呼べない。もうお前の婚約者でもないのだから」

「ニーディアに聞かねば選べない!!」

「私は構いませんよ」

開け放たれていた扉から、ニーディアの姿があった。

アドバンズは声をかけようとして、その状態で固まってしまった。

「無理はするなよ。心配になる」

ウェルスタが慌てて彼女に近寄り、腰を抱いて手を取った。
叔父の過保護な様も理解できた。

ニーディアの腹は大きく膨れていた。

ソファに座す許可を取ると、ウェルスタの介助でニーディアが座る。

「…どういうこと、だ」

ニーディアは首を傾げ、ウェルスタを見上げる。

「どうとは…?ウェル、お話になってないの?」
「聞かれなかったから」

ニーディアは、あぁと頷き丁寧な所作で挨拶をした。

「お久しぶりです。アドバンズ殿下」

「…それは誰の子だ」

「私の旦那様との子ですが」

「私は知らない」

「殿下は眠ってらっしゃったので」

困ったように笑うニーディアは、アドバンズの記憶にある笑顔とは違って見えた。

弟を見る目ではない。
それはまるで子供を見るような目で、母性がちらついた。

「ニーディアは私の妻となった」

叔父は、ニーディアの隣に膝をついて手を握っている。
甥の婚約者に対するような態度ではない。

「私が駄目だったから叔父上に擦り寄ったか淫売め」

「ニーディアを選んだのは私だ。侮辱するなら二度と合わせることは無い」

ウェルスタがニーディアを立ち上がらせ、部屋から出ていこうとするのをアドバンズが慌てて止めた。

「待てっ、私はまだ…選ぶべき道がわからない。ニーディア、どうすれば良い」

「好きに為さればよろしいのでは?陛下もそのようにおっしゃられたようですし」

「何…?」

ニーディアは振り返る。

「あなたの選択の結果が今なのですから」

『ニーディアとの婚約を破棄する』という選択をした結果。

「アドバンズ殿下の選択の結果がまた、今の私の現状でもあります」

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