眠りから目覚めた王太子は

基本二度寝

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「体調はどうだ」
「…ウェル兄上…」
「寝ていないのか?眠れないのか?医者を呼ぶか?」

父の年の離れた弟ウェルスタはアドバンズの叔父にあたる。
アドバンズとは五つしか年が離れていない為、叔父というよりも兄のような関係だった。
この兄はよく弟のようなアドバンズを心配していた。

それを煩わしく思う方が多分にあったが、不安を抱える今は安心を感じる。
自分勝手だという自覚はある。

長い眠りから目覚めたせいか、アドバンズは丸一日眠らなかった。
目が冴えていたせいもあったが、眠りにつくことに恐怖を覚えていたのだ。

「…眠りたくない」
「何故…?」

「次に目覚めるのはいつになるのかという恐怖が」

はたまたもう目覚めることはできないのではないか、と。

「それならもう大丈夫だろう。妖精の気が済んだようだからな」

「、え?」

「お前が妖精の祝福を受けた婚約を破棄したから、機嫌を損ねた妖精がお前を眠らせただけなのだぞ。
眠りから目覚められたということは、妖精の気持ちが治まったと言う事だろう」

目の前の兄代わりの男の言葉をアドバンズは理解できなかった。

妖精…?

今もまだ夢の中なのだろうか。
生真面目なウェルスタ兄上がこのような妄言を語るのだから。

「その間抜けな顔を止めるんだ。思っていることが顔に出やすいのは子供の頃と変わらないな」

「ウェル兄上いや叔父上。子供扱い…弟扱いは止めてくれ。俺は、いや私はもう成人済みなんだ」

幼子を見る目をアドバンズに向けられて、何時もの苛立ちがやって来た。
兄、いやこの叔父はいつもアドバンズを小さな子どものような扱いをすることに腹立たしく思っていた。

「そうか。ならばそのように対応しよう」

何時もの甘い顔を仕舞い込み、兄上は王弟の顔をした。

「眠りのせいで記憶が混濁しているのかわからないが、ニーディアとお前が婚約した際、『妖精の祝福を受けた』と騒ぎ出したのは幼かったお前だ。あの頃お前は妖精の姿を見聞きしていた」

「妖精…?まさか」

おとぎ話の中の存在を信じている叔父を訝しげに見つめた。

「お前が妖精の存在を否定するようになるとはな…」

いつしか、アドバンズが妖精の話を口にしなくなっていったが、国王達はとくに問題にはしていなかった。
第一王子の未来は次期国王に決まっていた。
妖精視の能力を持っていても邪魔にはならないが、失っても問題はなかった。

ただ、妖精の祝福を受けた婚約を破棄するなど馬鹿なことをしなければ。
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