眠りから目覚めた王太子は

基本二度寝

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「ああ…アドバンズ!目が覚めたのですね!よかったわ」

起き抜け早々に勢いよく母親に抱きつかれ、第一王子アドバンズは目を白黒させた。

「どうしたのですか、母上」
「どうしたって…ああそうね、眠っていたからわからないのね」

「お前は永らく夢の世界の住人だったのだぞ」

抱きつく母の背後から父現れ、ほっとしたような顔を見せた。

「永く眠っていた…?」

「そうよ。もうこのまま二度と目覚めないのではないかとずっと不安だったのよ」

母は泣きそうな顔で息子の頬を撫でる。
その態度と、頭の痛みや身体のだるさからどうやら本当の事なんだろうと察せた。

「皆に心配をかけてしまったようですね。申し訳ありません」

「良い。身体の体調を戻すことを第一に考えればよい」

父は笑みを浮かべアドバンズを気遣ってくれる。

「あの、それはそうと…メルリーノは…」
「メルリーノ…?」


ーーー
アドバンズには眠りに落ちる前の記憶があった。

学園に呼び出した自身の婚約者に向かって婚約の破棄を宣言した。
婚約者だったニーディアはアドバンズよりも一つ年上の公爵家の令嬢だった。

一つしか年が違わぬだけなのに、昔から姉のように口煩くアドバンズを叱りつけるような女だ。

そんな婚約者が一足先に卒業し、監視のなくなった学園で知り合った男爵家の令嬢メルリーノと恋に落ちるのに、時間はかからなかった。
アドバンズが初めて出会った、婚約者とは違い、守ってやりたくなるような儚さを持つ令嬢だった。

だから、メルリーノと結ばれるために、ニーディアに婚約破棄を申し付けたのだ。

その後、ぷつりと途絶えたように記憶がない。

婚約破棄を口にした後、ニーディアがどんな顔をしていたのかわからない。

メルリーノが頬を染めて喜んでいた顔が最後だ。
記憶はそこで途切れていた。

ーーー

「メルリーノ?…ああ。男爵家の子女か」
「はい。私の唯一です」

父も母もむつりと黙りこんでしまった。なにかあったのだろうか。

「…婚約者の辺境の貴族と婚姻したはずだ。届け出を目にした記憶がある」

「…は?」

顔も知らぬ国の端に住む田舎貴族との結婚を、彼女はずっと拒んでいた。

慰めるうちに彼女に傾倒してしまったのだけれど、その相手と婚姻を済ませたと聞いてアドバンズは呆然とした。
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