素顔を知らない

基本二度寝

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王太子は帰路についた。

帰りの道中は行き道のような問題が一切なく、あっさり帰ることができた。

聖女の存在のせいか、彼女が通る間に限り、大雨は止み、氾濫した川の勢いは無くなった。
橋が流された場所では、聖女が祈ると目の前に虹の橋が架かり対岸に渡った。

これが聖女の力…。

普段目にすることがなかった力。
それを目の前でこんなにもはっきりと体現されてしまえば、王太子は言葉もなかった。

隣国で謝罪を強要されたあの時、王太子は暴れだしそうな怒りを必死に抑えつけたことで、今、聖女の助力をもぎ取ることができた。
よく耐えたと自賛したい所だ。

当然だが王太子の謝罪を聖女は受け入れた。
隣国に戻るという聖女を心配する美しいだけではなく心優しき隣国王の妻に向かって聖女は「問題ない。ちょっとヤってくるわ」と指を下品に立てていた。
記憶にある聖女の言動が一致しない。

少しばかり隣国の城に囲われ調子づいたのか?
…性格が変わりすぎている気もする。

じっと聖女を見つめるが、薄気味悪い黒い髪も黒い瞳もそうある色味ではない。
不気味で珍しい色だった。

彼女を観察し、聖女に間違いないと王太子は確信している。

しかし、なぜか感じる違和感がずっと心の底に引っかかっていた。



「王太子よ!よく戻ったっ!して、聖女は!!」

国王は帰城した息子を早速呼びつける。
王はやまぬ雨、鳴り止まぬ雷が多少静かになった事で、無事聖女の帰国を果たしたのだと知った。

「おまたせしました。陛下。聖女が戻りましたのですぐにでもこの災害は収める事ができるでしょう…!
…しかし、少しばかり聖女の態度が目にあまり」

つらつらと宣う王太子の後ろから、現れた人物に目を向け国王は眉を寄せた。

「…王太子よ。聖女はどうした。何処にいる」

「え…?」

王太子の横に並び立つ女に目を向ける。
薄気味悪い髪色の女が国王に向かって、膝を折って礼をする。

「お初にお目にかかります、国王陛下。
私は聖女セイラと申します。隣国滞在中に、貴国の王太子殿下より助力を求められ、参りました」

「ふ…む?セイラ殿…?」

「…おい、貴様何を言っている。他人行儀な挨拶は俺に対する当てつけか!」

戸惑う国王に、苦々しく聖女を睨みつける王太子。
二人の違う反応を無視をして、聖女は傲慢な笑みを浮かべた。

「貴国で発生しているこの水害をおそらく止めることが出来るでしょう。…ご協力頂けるのであれば」

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