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三
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流された橋のせいで迂回を強いられ、馬も使えず移動は己の脚しかなかった。
通常なら一週間もあれば国境に辿り着けたものの、一月をかけてようやく王太子は隣国に入れた。
父からの叱咤からすぐに、隣国の国王に面会の申し入れを行った。
『貴国で保護している聖女に謝罪し、力を貸してほしい』ことを素直に伝えている。
回答はすぐにあり、面会が可能になった。
隣国ではもう王の代替わりは終えており、王太子と同じ年の王子が国王に即位している。
若いながらも生まれながらに為政者の才能を持ち、かつ有能な王妃にも恵まれ、国は安定しているようだ。
「よく来られた」
公式な訪問ではない。
謁見室ではなく、応接室に通され国王の前で王太子は頭を低くした。
同じ年でも立場は大きく違う。
隣国の王は纏う雰囲気が違う。
緊張感が増し、父と対面したように王の風格を感じた。
「今回は…追放された聖女との面会を希望、とのことだったか。…シルおいで」
国王は背後に声を掛けると、奥の部屋から女性が現れた。
銀の色の髪と蒼い瞳を持った女神のように美しい女性は、自然な動作で国王の隣に座る。
王の方から彼女の手を取り指を絡めてつなぐ。
「陛下…?」
「シル。今は公的な場じゃない。いつもみたいに名前で呼んで」
「…ラス」
困ったように微笑むその女を、王太子はぼぉっと見つめた。
「紹介する。彼女は私の妻。じつは最近結婚したばかりなんだ。シル、隣国の王太子殿下にご挨拶を」
「ウィンダラス陛下の妻、ミシルと申します」
「あ、あの、こちらこそ」
王太子は彼女に見惚れ、うまく言葉がでない。
今まで彼女ほど美しい見目の女性と出会ったことがなかった。
「えっ…と、お噂ではかねがね。賢女と呼ばれる王妃殿下がこんなにお美しい方だったとは」
「うん…?ミシルは王妃ではないが…?」
「え?しかし…今、妻とおっしゃいませんでしたか…?」
国王はミシルと一度視線を交わし、微笑んだ。
「ああ、ご存じではないのか。
我が国では『王妃』は役職なんだよ」
「はい?」
この国も以前は他国と同じように国王の妻を王妃として来たが、なかなかどうして有能な二人故か互いに相手を癒やし合うことが出来ず、公務ではよくとも私生活では反発し合い、夫婦としてはうまくいかない代が続いた。
それを改善すべく、先代より『王妃』を役職として、国王と王妃は公務、仕事上だけのパートナーとすることにした。
そうすることにより、公務と次代の出産という王妃の大きな役割も分担され、夫婦問題も改善された。
「王妃に相応しい女と、王になる男との婚姻がうまく行くケースが少なかったんだ。
だから仕事と私生活は分け、互いに伴侶を持つことでこの国では王と妃がうまく機能した。
私に愛する妻がいるように、王妃にも気を許せる夫がいる。王妃の夫は彼女を王妃に育てた教育係だった者なんだ」
「そう、なのですか…」
王太子は羨ましく、そして妬ましく思った。
此方は愛する者を自身で選び、婚約者を追放した結果、国が惨事に見舞われている。
同じ選択をして、幸せそうな隣国の王と王太子とでは結果が全く違っているのだから。
通常なら一週間もあれば国境に辿り着けたものの、一月をかけてようやく王太子は隣国に入れた。
父からの叱咤からすぐに、隣国の国王に面会の申し入れを行った。
『貴国で保護している聖女に謝罪し、力を貸してほしい』ことを素直に伝えている。
回答はすぐにあり、面会が可能になった。
隣国ではもう王の代替わりは終えており、王太子と同じ年の王子が国王に即位している。
若いながらも生まれながらに為政者の才能を持ち、かつ有能な王妃にも恵まれ、国は安定しているようだ。
「よく来られた」
公式な訪問ではない。
謁見室ではなく、応接室に通され国王の前で王太子は頭を低くした。
同じ年でも立場は大きく違う。
隣国の王は纏う雰囲気が違う。
緊張感が増し、父と対面したように王の風格を感じた。
「今回は…追放された聖女との面会を希望、とのことだったか。…シルおいで」
国王は背後に声を掛けると、奥の部屋から女性が現れた。
銀の色の髪と蒼い瞳を持った女神のように美しい女性は、自然な動作で国王の隣に座る。
王の方から彼女の手を取り指を絡めてつなぐ。
「陛下…?」
「シル。今は公的な場じゃない。いつもみたいに名前で呼んで」
「…ラス」
困ったように微笑むその女を、王太子はぼぉっと見つめた。
「紹介する。彼女は私の妻。じつは最近結婚したばかりなんだ。シル、隣国の王太子殿下にご挨拶を」
「ウィンダラス陛下の妻、ミシルと申します」
「あ、あの、こちらこそ」
王太子は彼女に見惚れ、うまく言葉がでない。
今まで彼女ほど美しい見目の女性と出会ったことがなかった。
「えっ…と、お噂ではかねがね。賢女と呼ばれる王妃殿下がこんなにお美しい方だったとは」
「うん…?ミシルは王妃ではないが…?」
「え?しかし…今、妻とおっしゃいませんでしたか…?」
国王はミシルと一度視線を交わし、微笑んだ。
「ああ、ご存じではないのか。
我が国では『王妃』は役職なんだよ」
「はい?」
この国も以前は他国と同じように国王の妻を王妃として来たが、なかなかどうして有能な二人故か互いに相手を癒やし合うことが出来ず、公務ではよくとも私生活では反発し合い、夫婦としてはうまくいかない代が続いた。
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そうすることにより、公務と次代の出産という王妃の大きな役割も分担され、夫婦問題も改善された。
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私に愛する妻がいるように、王妃にも気を許せる夫がいる。王妃の夫は彼女を王妃に育てた教育係だった者なんだ」
「そう、なのですか…」
王太子は羨ましく、そして妬ましく思った。
此方は愛する者を自身で選び、婚約者を追放した結果、国が惨事に見舞われている。
同じ選択をして、幸せそうな隣国の王と王太子とでは結果が全く違っているのだから。
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