素顔を知らない

基本二度寝

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「馬鹿者がっ!」
「っ」

王太子は国王の怒声を受け、身体を震わせた。
生まれてから甘やかされて育てられたせいか、ここまで激怒されたことがなかった。

王太子は他国訪問中の国王の帰国までに聖女との婚約破棄を完了させ、彼女を国外に追放した。

見目麗しい聖女補佐の令嬢を早々と新たな婚約者に選んだのだが、聖女の追放直後から問題が発生した。


止まぬ雨から水害が発生した。
多くの作物が流され、農業は壊滅的。
在庫をかかえていた卸業者は多少持ちこたえたが、状況に不安を覚えた国民が一斉に買いに走り、食料の物価が一時高騰し、飲食店から順に休業を余儀なくされた。
輸入に頼ろうとも、流された橋や道のせいで行路が機能していない。

元々水害の多い地だったが聖女の力でこの国は安定していた。
聖女なくしてはこの国は成り立たない。

知識として知ってはいても、実際引き起こされる現象を想像できず、このような事態にまで陥ってようやく聖女の重要性を王太子は理解した。

自分の欲で、国が傾いた。
気に入った女を妻に出来ても、幸せな未来はない。


「聖女補佐はあくまで補佐だ!聖女様の力には及ばない!聖力の差は誤差だと?そんなもの関係ない!聖女様が持つ稀有なスキルが重要なのだ!
そのスキルを他の者が保持しているなら、国の安定のため、聖女を一人とせずに多く量産させるに決まっているだろう!!
は貴重だと、王族に取り込もうとするほどに重要だと、何度言えばわかるのだ!!」

聖女補佐の令嬢は王太子の横で俯いている。
王太子と並んで、国王の怒りを受けた。

聖女がいなくなり、「どうにかしろ」と誰彼から責められていた。
ただの補佐、聖女候補ではあったが。
多く在籍する聖女補佐の内の一人。
任された役割は、聖女に聖力を差し出すだけ。
王太子に「聖女よりも美しい君ならできる」なんて甘い言葉でその気になった。

追い出された聖女の代わりに、見様見真似で祈りを捧げてみせたが、聖女が普段から発生させていたような暖かい光は現れなかった。

国には次第に暗雲が立ち込め、降り出した暗い雨はこれからの未来を示しているようだ。

手応えのない祈りは天に届くことはなく、聖女補佐の気持ちも灰色の空と同様で晴れることはなかった。

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