聖女の専属護衛は婚約破棄を受け入れる

基本二度寝

文字の大きさ
上 下
5 / 5

五 

しおりを挟む
シャラリーゼは王城に顔を出していた。

聖女様は王城に滞在している。
ならば、ガルウィングも彼女のそばに居るはずだ。

話がしたい。
もし、聖女様の一方的な想いでガルウィングを縛り付けているのなら、国王陛下おじさまに抗議して、護衛職をやめさせれば良い。

「一週間部屋から出てこられなかった」
「無茶をなさる…」
「時々謝罪の声が聞こえてきて、」
「お労しい…」

女中の会話を耳にして、シャラリーゼは憤っていた。
聖女様はその立場を利用して、ガルウィングに酷い仕打ちをしているのだ。

聖女様の人権侵害は道理に反する。

これを理由にすれば、ガルウィングは自由になれる。
王城内を歩き回り、ガルウィングと聖女を探し回っていた。


シャラリーゼが中庭の渡り廊下を歩いていたその時に声が聞こえた。

「も…許して」

すすり泣く声は女のもの。

「あれ程教えたのに、まだリノはわかっていないのか」

男の声には覚えがある。
シャラリーゼは動けない。

「リノ」

こんなに甘く優しく囁く声など婚約時に聞いたことなどない。

「俺のすべてはリノのものだ」

女の悲鳴が上がる。
姿は見えない。
それでも激しく肌を打つ音が断続的な悲鳴に交じる。

サドルに情事を教えてもらった。
それとは比べ物にならないほどの熱量。

次第に追い詰められた女の声が、愛してると繰り返し、唐突に声は止んだ。

そこから動けなかったシャラリーゼは、しばらくして中庭の影から出てくる男と目があった。

気を失っている女性を横抱きで抱えた状態で、婚約者だった男は「あぁ、どうも」と感情のない顔で声をかけてきた。

「ガル、ウィング」
「どうかされましたか」

先程までの甘さを一切消した声色。
同一人物かと耳を疑うほどの変わりよう。

「私は、貴方を、助けに」

ガルウィングは首を傾げる。
「別に助けなど求めていませんが」
「だって、聖女様に無理やり」

「聖女様無理やり、ですね。どちらかといえば」

そういって腕の中の女性に目を向け、優しく微笑んでいた。

…そんな顔、知らない。

ガルウィングはシャラリーゼの横を通り過ぎる。

「ああ。ここ最近、貴女は俺を探し回っていたようですね。元婚約者が彷徨いているって、リノが、聖女様が気にしていて、かわいい嫉妬を向けられました」

ガルウィングの口が緩む。

「どうもありがとうございました」


シャラリーゼは初めてガルウィングに微笑んでもらえた。

そうしてようやく気づいた。

シャラリーゼはガルウィングに愛されていなかったのだと。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」

まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。 【本日付けで神を辞めることにした】 フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。 国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。 人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 アルファポリスに先行投稿しています。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」 物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。 ★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位 2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位 2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位 2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位 2023/01/08……完結

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】わたしは大事な人の側に行きます〜この国が不幸になりますように〜

彩華(あやはな)
恋愛
 一つの密約を交わし聖女になったわたし。  わたしは婚約者である王太子殿下に婚約破棄された。  王太子はわたしの大事な人をー。  わたしは、大事な人の側にいきます。  そして、この国不幸になる事を祈ります。  *わたし、王太子殿下、ある方の視点になっています。敢えて表記しておりません。  *ダークな内容になっておりますので、ご注意ください。 ハピエンではありません。ですが、救済はいれました。

愚か者の話をしよう

鈴宮(すずみや)
恋愛
 シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。  そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。  けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?

処理中です...