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五
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「おかあさま、おとうさま」
真っ青なエクシルは父に手を伸ばす。
父の目はどこか虚ろだった。
あんなにエクシルを猫可愛がりしていた父はその手をとることはなく、エリエルに向き直った。
「…次期当主はエリエル、お前を指名する」
父に似た目。母に似た鼻筋。
父の髪色。母の瞳の色。
平凡な両親の良い部分を受け継いだ平凡顔のエリエルは水晶など使わずとも二人の子だと誰の目にも明らかだ。
「お断りします」
「なにっ」
エリエルは初めて父の意向を拒否した。
「当初の予定通り、エクシルが成人した本日、家を出ます」
「ならん!」
「すでに、離縁届は本日付で受理されたと連絡がありました。私はもう伯爵家の人間ではございません」
父は目を大きく見開いた。
縁切りの届けを署名した上で寄こしたのは父なのに何故そんなに驚くのだろう。
エリエルも署名して早々に提出し、本日ようやく受理された。
「すぐに取り下げさせるっ」
「それは無理です」
宰相が口を挟んだ。
「縁切りの離縁届は提出から受理までに時間を要します。その間に取り下げることは可能ですが、受理後の取り下げは受け付けていません。書類を渡す際に職員から説明があったはずです」
エリエルもその点は確認をしている。
婚姻届などとは違い、提出すれば受理とはならない。
丁寧に精査した上で、受理される。
署名の強制性がないか。
捺印、署名の偽造はないか。
理由は適切か。
本人の意向は。
本日受理の連絡を受け、間に合ったと一安心した。
エリエルは晴れて、伯爵家と縁が切れた。
この場に参加したのは、昔からの疑問を確認したかったただの野次馬根性だけだった。
真っ青なエクシルは父に手を伸ばす。
父の目はどこか虚ろだった。
あんなにエクシルを猫可愛がりしていた父はその手をとることはなく、エリエルに向き直った。
「…次期当主はエリエル、お前を指名する」
父に似た目。母に似た鼻筋。
父の髪色。母の瞳の色。
平凡な両親の良い部分を受け継いだ平凡顔のエリエルは水晶など使わずとも二人の子だと誰の目にも明らかだ。
「お断りします」
「なにっ」
エリエルは初めて父の意向を拒否した。
「当初の予定通り、エクシルが成人した本日、家を出ます」
「ならん!」
「すでに、離縁届は本日付で受理されたと連絡がありました。私はもう伯爵家の人間ではございません」
父は目を大きく見開いた。
縁切りの届けを署名した上で寄こしたのは父なのに何故そんなに驚くのだろう。
エリエルも署名して早々に提出し、本日ようやく受理された。
「すぐに取り下げさせるっ」
「それは無理です」
宰相が口を挟んだ。
「縁切りの離縁届は提出から受理までに時間を要します。その間に取り下げることは可能ですが、受理後の取り下げは受け付けていません。書類を渡す際に職員から説明があったはずです」
エリエルもその点は確認をしている。
婚姻届などとは違い、提出すれば受理とはならない。
丁寧に精査した上で、受理される。
署名の強制性がないか。
捺印、署名の偽造はないか。
理由は適切か。
本人の意向は。
本日受理の連絡を受け、間に合ったと一安心した。
エリエルは晴れて、伯爵家と縁が切れた。
この場に参加したのは、昔からの疑問を確認したかったただの野次馬根性だけだった。
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