妹を叩いた?事実ですがなにか?

基本二度寝

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「クアンナ、君との婚約は破棄させてもらう」

王太子は、クアンナを睨みつけていた。

「…かしこまりました」

逡巡した後にクアンナは了承した。

「理由は、わかる?」
「そんなことより、婚約破棄の書類を」
「そんなこと…?」
「早く済ませてください。話を引き伸ばすことに意味はないでしょう。無駄話の末、婚約破棄を撤回でもするつもりですか?」
「そんなわけがあるか!早く書類をっ」

王太子エリシオンは側近を怒鳴りつける。

妖精の契約。
エリシオンが文言を読み上げると、妖精が姿を現した。

「私、エリシオンはクアンナとの婚約の破棄を求める」
「了承します」

二人の言葉に妖精が頷くと、くるくると踊り始め、二人の手首に繋がる鎖が現れた。
そして、その鎖が光を放ち、ぱんと弾けた。
繋がれていた縁はこの場で切れた。
一度結んだ縁を切れば、

「もう二度と戻らない」

手首をなでるクアンナの言葉にふんと鼻を鳴らした。

「君のような野蛮な女を妃に迎えずに済んでよかったと心から思うよ」

「それはなによりですね」

悲しむことも縋ることも怒り狂うこともなく淡々としている元婚約者に王太子は苛立った。

「君は妹に手を上げたそうだね。はっきり言って失望した」

エリシオンはクアンナの妹マゼンダと仲が良かった。
彼女が泣いて、腫らした頬を押さえていた所を見つけ、犯人を問いただした。

口を割らなかったマゼンダだが、必死なエリシオンにようやく実姉の名を呟いた。
エリシオンの胸に縋りついて泣いたマゼンダを愛しく思う気持ちが止められず、同時にクアンナに対する強い怒りが沸き起こった。

「そうですね。手を上げましたよ。頬が腫れるほどに打ちました」

「鬼畜が!」

「鬼畜の私はもうこの王家との縁は切れました。失礼いたします」

「おい、待て!」

怒るエリシオンの静止を聞かず、クアンナは足を止めることなく王城を出た。





「殿下より婚約破棄を命じられました。戻っても傷物の娘は家の役には立たないでしょう。
妹を大事にしている父には私など不要でしょうから、このまま家を出ることにします」

クアンナは護衛と侍女に告げた。

「長い間、側に居てくれて有難う」

護衛に握手を、侍女にはハグをしてクアンナは実家の馬車で待機していた二人に最後の挨拶をした。
彼らだけは、クアンナの味方だった。

「…お元気で」

二人は引き止めることもせずに、見えなくなるまでクアンナをじっと見つめていた。




「これは、何を!?」

エリシオンが呼ばれた謁見室に入れば、母である王妃が蹲るマゼンダを扇子で打ち、暴行を加えていた。
陛下は止もせず厳しい顔でマゼンダを見据えていた。

「申し訳、ありません。申し訳っぐっ」
「母上、一体何を!!!」

マゼンダに駆け寄ろうとして、近衛兵に止められた。
マゼンダはひたすら母上に許しを乞うていた。

「お前のせいで!お前のせいでっ!!」
「母上っ」
「うるさいっ!貴方がこんな女を王城に入れたせいでどうなったと思っているの!」

姉に会いたいというマゼンダに入城の許可を出したのはエリシオンだった。

「何故こんな酷いことを、母上見損ないました!」
「口が過ぎるぞ、エリシオン」

父上はマゼンダに向けていた視線のままエリシオンを見た。
憎しみの炎がその瞳に渦巻いていた。

「この女がっ、条約の調印のために来ていた隣国陛下に無礼を働いたのよ!!お陰で折角の条約が流れた!十年と必死で交渉してきた事が、全て水の泡なのよ!」
「もうじわげ、ありまぜん」

顔を上げたマゼンダは、人相が変わるくらいに腫れ上がっていた。
頬が腫れていたときの比ではなく、顔全体が膨れ上がっている。

「マゼンダが何をしたとっ!」
「陛下の部屋に忍び込んで半裸で陛下に迫ったのよ!!この城では娼婦を飼っているのかと散々嫌味を言われたわ!!」

マゼンダを半裸のまま国王と王妃の前に引き摺っていき、隣国の陛下は剣を抜いた。

マゼンダの首が飛ばなかったのは、クアンナが額を地に擦り付け、ひたすら謝罪したからだ。

許されたとマゼンダが姉に擦り寄ったその時に頬を打たれたようだ。

「そんな、マゼンダが無礼を働いたなど、…クアンナは何も説明しなかった…」
「王太子の婚約者クアンナのおかけで、我々は地に額を付けずにすんだ。王が他国の王にそれを行えば、相手に国を委ねる意味になる。かろうじて、首の皮一枚が繋がった」

国王の言葉に、エリシオンは青ざめた。
国を救った英雄に婚約破棄を突き付け、成立させた。
誰に知られる前に、再び結ばねば…。

急いで彼女の実家に向かったが、父親の当主は何も知らず、まだ娘は戻ってないと言われた。

「クアンナ…何処にいる…」

当主に頼み込み、彼女が戻ってくるまで屋敷で待たせてもらったが、結局翌日になっても戻らず、エリシオンは青い顔のまま城に戻った。

前夜、ひっそりと出国した冒険者達がいた。

「何処までもクアンナ様、いえアンナに付き従うと決めておりましたから」
「ええ。足手まといにならぬようお仕えします。アンナ」
「はぁ…もう好きにして。二人とも、今は同じパーティの仲間なのだから、その畏まった言葉遣いは止めてね」
「「心得ております」」
「…はぁ」

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