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四
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「ミレーユ様、離れにはお近づきになりませんように」
屋敷の窓から庭を見ていたミレーユの視線の先に気づいた侯爵当主の秘書が釘を差す。
「旦那様はまだ彼処に?」
美しい中庭の向こう側に小さな小屋が見える。
結婚後に恋人を囲うと言っていた。
「旦那様…ね。まともに義務も果たせないあの男を旦那様呼びなど百年早いです。
本来なら家長としての義務をこなしてから愛人を持つと言うのに」
秘書は吐き捨てる。
当主を尊敬している秘書は、彼の子息に対しては辛辣だった。
結婚前はどうだったか知らないけれど、結婚後は殆ど離れに入り浸り、侯爵家の仕事を放棄しているようだ。
そのしわ寄せが秘書に回ってくるので、愚痴の一つでも言いたいのだろう。
前職は騎士団に所属していたというこの秘書は実は口が悪い。
ぽろりと溢したミレーユの夫への悪態を、何度も聞いている。
「ねぇ。今月も駄目だったようなの。閨の頻度をすこし増やせないかしら」
二度目の交わりを終えても、まだ子は成らない。
ミレーユの言葉に秘書は手帳を取り出し、じっと見つめる。
閨の日付でも書かれているのだろうか。
ならば、少し恥ずかしい気もする。
「旦那様に確認いたします。旦那様の命令ならば拒否できません」
「…そうね。命令じゃないときっと訪れは無いわね」
中庭の向こうの離れを見つめた。
あそこでは心の通じ合う恋人たちが愛し合っている。
「…羨ましいわ」
貴族は政略結婚が一般的だ。
父は娘の為に娘を思いやる相手を望んでいたが、現実はこんなものなのだろう。
愛のない閨は義務でしかない。
「愛されるってどんな感じなのかしら」
旦那様はどんな顔で恋人を抱いているのか、少しだけ気になった。
秘書が物言いたげな顔をしていることには気づかないふりをした。
屋敷の窓から庭を見ていたミレーユの視線の先に気づいた侯爵当主の秘書が釘を差す。
「旦那様はまだ彼処に?」
美しい中庭の向こう側に小さな小屋が見える。
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「旦那様…ね。まともに義務も果たせないあの男を旦那様呼びなど百年早いです。
本来なら家長としての義務をこなしてから愛人を持つと言うのに」
秘書は吐き捨てる。
当主を尊敬している秘書は、彼の子息に対しては辛辣だった。
結婚前はどうだったか知らないけれど、結婚後は殆ど離れに入り浸り、侯爵家の仕事を放棄しているようだ。
そのしわ寄せが秘書に回ってくるので、愚痴の一つでも言いたいのだろう。
前職は騎士団に所属していたというこの秘書は実は口が悪い。
ぽろりと溢したミレーユの夫への悪態を、何度も聞いている。
「ねぇ。今月も駄目だったようなの。閨の頻度をすこし増やせないかしら」
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ならば、少し恥ずかしい気もする。
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「…羨ましいわ」
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「愛されるってどんな感じなのかしら」
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