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六 一年後
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一年で一日。
この日に向けて、コツコツと一年の大半を準備作業につぎ込む。
この一年で不幸に見舞われた民に贈りものを。
「先生なんですか。この衣装は」
日が落ちてから動き出すつもりだったディーノは、師から渡された服に着替え、顔をしかめた。
「目立たないように動かないといけないのに、なんでこんなクソ派手な色で動き回らないといけないんですか」
ありえないほど目立つ赤い色の上下の衣装に、ディーノは己の師に食って掛かる。
「しかも!先生は今年は配達作業はしないって!一人で全部を回れなんて、鬼畜にも程がありませんか!」
「はは。だって私はもう嘱託員だし?」
「ぐっ」
一年前、見事魔術師試験をパスし、晴れて一人前とされる魔術師の肩書を得たディーノに、父である国王が命じた。
月の使徒の責任者を、王弟ラリウスから第三王子ディーノに変更する、と。
あとは宜しくと言わんばかりに逃げ出そうとする叔父を掴み、「一人では無理だ」と父に訴えた。
ラリウスも引き続きディーノのフォローをと兄に願われ、渋々引き受けていた。
責任の立場は変われど、これまでの様に分担して行っていた業務なのに、師は当日になって自身は配達業はしないという。
「大丈夫ですよ。その衣装には身体能力を上昇させる効果を付加してます」
「…確かに。やけに身体が軽いとは思っていましたが、なんでまたこんな目立つ赤なんか」
「ノリで」
「ふざけんな」
胡乱な目を向けるディーノの後ろから、ドアを叩く音がして、ラリウスが勝手に入室の許可を出す。
「あの、ディーノ…様?」
そぉっと顔を見せたのは、ディーノの婚約者。
伯爵令嬢のイヴェットは、顔だけ見せて部屋に入ろうとはしない。
「?イヴ。どうし……!」
「いや、あのこれは、ラリウス様が」
そぉっと姿を見せたイヴェットは、貴族ではありえないほど短いスカート。その下は黒いタイツを履いていた。
ピッタリとした生地は、イヴェットの足のラインを見せており、ディーノは慌てて自分の背にイヴェットを隠す。
「先生なんですか!これは!俺のイヴに、こんなエロ…卑猥な格好なんかさせて!」
縁にファーをあしらっているワンピースドレスは、ディーノとは違い控えめな茶色をしている。
頭には小さな角と獣耳がついたカチューシャをつけて、何かの動物に扮しているのだろうとは思うのだが。
「今回はイヴェット嬢にもお手伝い頂こうとね?巷では獣耳というのが流行っているようなので、流行りを取り入れた衣装にしてみました」
「流行りって…」
猫耳や兎耳の扮装道具が平民の間で流行っていることは調査上知っている。
しかし、枝角の生えた獣耳は初めてだ。
「動物の角には魔力が宿るんですよ」
「説明になってないです」
「まぁまぁ、いいじゃないですか。イヴェット嬢が隣にいれば、仕事のやる気も起こるでしょう?」
ディーノは、イヴェットに目を向ける。
恥ずかしいのか、スカートの裾をずっと下に引っ張っている。
そうした所で足を隠せるわけがない。
別のやる気の方が起こりそうだ。
仕事など放り出して、このままイヴェットを私室に連れ込みたい所だけれど。
職務の放棄は流石に不味い。
こんな格好のイヴェットを残していくわけにも行かない。
一年前に出会ったイヴェットとの出会いはディーノの贈り物。
ディーノの未来には必要不可欠な人。
この国の民にも同じように前向きな未来を掴んでほしい。
大きなため息を吐き、ディーノはイヴェットと向き合う。
「イヴ。今夜の仕事に同行してもらえる?」
「あ、はい!もちろんです」
満面の笑みを見せたイヴェットに、ディーノはやはり、「このまま連れ込みたいな」などと考えていた。
この日に向けて、コツコツと一年の大半を準備作業につぎ込む。
この一年で不幸に見舞われた民に贈りものを。
「先生なんですか。この衣装は」
日が落ちてから動き出すつもりだったディーノは、師から渡された服に着替え、顔をしかめた。
「目立たないように動かないといけないのに、なんでこんなクソ派手な色で動き回らないといけないんですか」
ありえないほど目立つ赤い色の上下の衣装に、ディーノは己の師に食って掛かる。
「しかも!先生は今年は配達作業はしないって!一人で全部を回れなんて、鬼畜にも程がありませんか!」
「はは。だって私はもう嘱託員だし?」
「ぐっ」
一年前、見事魔術師試験をパスし、晴れて一人前とされる魔術師の肩書を得たディーノに、父である国王が命じた。
月の使徒の責任者を、王弟ラリウスから第三王子ディーノに変更する、と。
あとは宜しくと言わんばかりに逃げ出そうとする叔父を掴み、「一人では無理だ」と父に訴えた。
ラリウスも引き続きディーノのフォローをと兄に願われ、渋々引き受けていた。
責任の立場は変われど、これまでの様に分担して行っていた業務なのに、師は当日になって自身は配達業はしないという。
「大丈夫ですよ。その衣装には身体能力を上昇させる効果を付加してます」
「…確かに。やけに身体が軽いとは思っていましたが、なんでまたこんな目立つ赤なんか」
「ノリで」
「ふざけんな」
胡乱な目を向けるディーノの後ろから、ドアを叩く音がして、ラリウスが勝手に入室の許可を出す。
「あの、ディーノ…様?」
そぉっと顔を見せたのは、ディーノの婚約者。
伯爵令嬢のイヴェットは、顔だけ見せて部屋に入ろうとはしない。
「?イヴ。どうし……!」
「いや、あのこれは、ラリウス様が」
そぉっと姿を見せたイヴェットは、貴族ではありえないほど短いスカート。その下は黒いタイツを履いていた。
ピッタリとした生地は、イヴェットの足のラインを見せており、ディーノは慌てて自分の背にイヴェットを隠す。
「先生なんですか!これは!俺のイヴに、こんなエロ…卑猥な格好なんかさせて!」
縁にファーをあしらっているワンピースドレスは、ディーノとは違い控えめな茶色をしている。
頭には小さな角と獣耳がついたカチューシャをつけて、何かの動物に扮しているのだろうとは思うのだが。
「今回はイヴェット嬢にもお手伝い頂こうとね?巷では獣耳というのが流行っているようなので、流行りを取り入れた衣装にしてみました」
「流行りって…」
猫耳や兎耳の扮装道具が平民の間で流行っていることは調査上知っている。
しかし、枝角の生えた獣耳は初めてだ。
「動物の角には魔力が宿るんですよ」
「説明になってないです」
「まぁまぁ、いいじゃないですか。イヴェット嬢が隣にいれば、仕事のやる気も起こるでしょう?」
ディーノは、イヴェットに目を向ける。
恥ずかしいのか、スカートの裾をずっと下に引っ張っている。
そうした所で足を隠せるわけがない。
別のやる気の方が起こりそうだ。
仕事など放り出して、このままイヴェットを私室に連れ込みたい所だけれど。
職務の放棄は流石に不味い。
こんな格好のイヴェットを残していくわけにも行かない。
一年前に出会ったイヴェットとの出会いはディーノの贈り物。
ディーノの未来には必要不可欠な人。
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大きなため息を吐き、ディーノはイヴェットと向き合う。
「イヴ。今夜の仕事に同行してもらえる?」
「あ、はい!もちろんです」
満面の笑みを見せたイヴェットに、ディーノはやはり、「このまま連れ込みたいな」などと考えていた。
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