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七 演武会後
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絶対おかしい。なにか変だ。
物置部屋に閉じ込められたトルクトは腫れた頬を抑えていた。
昨日に引き続き、今日もアルシオーネに会いに行った。
一晩経てば、アルシオーネも冷静になるだろうと思っていた。
伯爵家に押しかけたことがばれ、抗議を受けたようで、父はトルクトに謹慎を言いつけた。
それではアルシオーネに会いに行けない。
婚約関係が戻れば、父も喜ぶだろうと訴えれば、アルシオーネはもう他の子息と婚約を結んでいると言われた。
…はぁ?
もう?
婚約解消からそんなに日は経っていない。
いくら何でも、早すぎるだろう。
…まさか、あの女浮気していたんじゃ
けれど相手を聞けば、ただの男爵子息。
しかも、相手に嫁ぎ婚姻後は伯爵家から離れ、貴族ではなくなるという。
トルクトは首を傾げた。
あまりに利益のない婚姻だ。
そうか。
アルシオーネは婚約解消がショックのあまり熟考せず相手を決めたんだ。
俺でないなら誰でも同じ。
貴族でなくなれば社交の場には出られない。
そこまでして、トルクトを忘れようとしているんだ。
トルクトは己の都合よく解釈した。
伯爵家にはもう行けない。
次訪れたら警備団に突き出すし、支援も取りやめると通告された。
ならば、外で会うしかない。
新しい婚約相手の男爵子息は騎士団所属だという。
律儀なアルシオーネなら、明日の騎士団演武会へ観覧に向かうはずだ。
トルクトは、屋敷の者に気付かれぬようこっそり部屋から抜け出した。
ーーー
「総括の息子に絡むなんてとんだ命知らずが居たもんだ」
男爵家の男がアルシオーネと去るのを呆然と見つめていた時、どこから現れたのか屈強な男たちがトルクトを囲んだ。
「な、なんだお前達はっ」
王家の紋章を肩に刻む甲冑を纏った彼らは、先程演武会の中心に居た者たちだった。
彼らの爵位はわからないが、今この会場で彼らに高圧的に振る舞うのは不利だ。
「なにって…なぁ?」
「我らの上官に絡む奴がいたらまぁ…一応確保対象になるわけで」
上官…?
トルクトの兄より年上だろう男達が口にする上官に絡んでなどいない。
なにか誤解が生じている。
「俺、いや、私は誰にも迷惑をかけていない」
「いやいや、うちの大将の婚約者に声かけてただろ。しかも名を呼び捨て。…知らないってすげぇな」
「彼女に暗部をつけててよかった。接触の可能性って連絡受けて大将速攻飛び出したよな。いやぁ…こえぇ…」
「待て待て。暗部ってなに、所属違うのに大将なんで暗部に指示出せんの?おかしくね?」
「お前はまだうちに来て日が浅いから…そのうち…わかる」
トルクトを放置して騎士団員は盛り上がっている。
少しずつ距離を取り、この場を離れようとした。
「…どこへいく?ちゃんと家まで丁重に送り届けろと言われてる。…逃げるな」
トルクトの真後ろから声が降ってきた。
そっと振り返れば、頭一つ分高い視線がトルクトを見下ろす。
「っひぃ」
女に見せつけ、戯れるためだけの中途半端に鍛えた身体は、実用的な筋肉を持つ団員たちに囲まれれば小枝のようだった。
見世物のように、往来を闊歩して屋敷まで連行されると、父は団員達に伏して謝罪し、トルクトは温厚な兄に頬を張られ、古い物置部屋に押し込まれたのだった。
※『大将』は部下間のあだ名で役職名ではありません。
物置部屋に閉じ込められたトルクトは腫れた頬を抑えていた。
昨日に引き続き、今日もアルシオーネに会いに行った。
一晩経てば、アルシオーネも冷静になるだろうと思っていた。
伯爵家に押しかけたことがばれ、抗議を受けたようで、父はトルクトに謹慎を言いつけた。
それではアルシオーネに会いに行けない。
婚約関係が戻れば、父も喜ぶだろうと訴えれば、アルシオーネはもう他の子息と婚約を結んでいると言われた。
…はぁ?
もう?
婚約解消からそんなに日は経っていない。
いくら何でも、早すぎるだろう。
…まさか、あの女浮気していたんじゃ
けれど相手を聞けば、ただの男爵子息。
しかも、相手に嫁ぎ婚姻後は伯爵家から離れ、貴族ではなくなるという。
トルクトは首を傾げた。
あまりに利益のない婚姻だ。
そうか。
アルシオーネは婚約解消がショックのあまり熟考せず相手を決めたんだ。
俺でないなら誰でも同じ。
貴族でなくなれば社交の場には出られない。
そこまでして、トルクトを忘れようとしているんだ。
トルクトは己の都合よく解釈した。
伯爵家にはもう行けない。
次訪れたら警備団に突き出すし、支援も取りやめると通告された。
ならば、外で会うしかない。
新しい婚約相手の男爵子息は騎士団所属だという。
律儀なアルシオーネなら、明日の騎士団演武会へ観覧に向かうはずだ。
トルクトは、屋敷の者に気付かれぬようこっそり部屋から抜け出した。
ーーー
「総括の息子に絡むなんてとんだ命知らずが居たもんだ」
男爵家の男がアルシオーネと去るのを呆然と見つめていた時、どこから現れたのか屈強な男たちがトルクトを囲んだ。
「な、なんだお前達はっ」
王家の紋章を肩に刻む甲冑を纏った彼らは、先程演武会の中心に居た者たちだった。
彼らの爵位はわからないが、今この会場で彼らに高圧的に振る舞うのは不利だ。
「なにって…なぁ?」
「我らの上官に絡む奴がいたらまぁ…一応確保対象になるわけで」
上官…?
トルクトの兄より年上だろう男達が口にする上官に絡んでなどいない。
なにか誤解が生じている。
「俺、いや、私は誰にも迷惑をかけていない」
「いやいや、うちの大将の婚約者に声かけてただろ。しかも名を呼び捨て。…知らないってすげぇな」
「彼女に暗部をつけててよかった。接触の可能性って連絡受けて大将速攻飛び出したよな。いやぁ…こえぇ…」
「待て待て。暗部ってなに、所属違うのに大将なんで暗部に指示出せんの?おかしくね?」
「お前はまだうちに来て日が浅いから…そのうち…わかる」
トルクトを放置して騎士団員は盛り上がっている。
少しずつ距離を取り、この場を離れようとした。
「…どこへいく?ちゃんと家まで丁重に送り届けろと言われてる。…逃げるな」
トルクトの真後ろから声が降ってきた。
そっと振り返れば、頭一つ分高い視線がトルクトを見下ろす。
「っひぃ」
女に見せつけ、戯れるためだけの中途半端に鍛えた身体は、実用的な筋肉を持つ団員たちに囲まれれば小枝のようだった。
見世物のように、往来を闊歩して屋敷まで連行されると、父は団員達に伏して謝罪し、トルクトは温厚な兄に頬を張られ、古い物置部屋に押し込まれたのだった。
※『大将』は部下間のあだ名で役職名ではありません。
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