無口なあの娘はとてもお喋り

基本二度寝

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あの夜会の後すぐに、人形令嬢が城に上がると聞いた。

グラハザードが準備をして、彼女の居住場所を整えた。
それに伴い、王族の住まう塔から、グラハザードは彼女を招く棟に住居を移した。

彼女につける護衛も侍女も、弟自ら選定したらしく、事情を探ろうと考えたリーヴェンスの手のものを紛れ込ませることはできなかった。


まだ婚姻もしていない女を城に上げるなど、一体なんのつもりだ。
内偵できなかった為、父に「グラハザードに甘くはないか」と、公務の後に小言を零した。


「あの娘は侯爵家で虐げられていた。
グラハザードはそれらを証明して、身を守るために城に上げたいと望んだのを、私がそれを認めた。
…何が問題だ?」

「虐げられていた?彼女は別に怪我をしていた事もなかったし、家人から嫌がらせを受けていたようには思えませんでしたが」

「…お前はそれほど彼女の親身になったことが無いだけだろう?」

じとりと見下される目線に、リーヴェンスは黙った。

「私もグラハザードに言われるまで気づかなかった愚か者ではあったが」

「愚か者だなんて…」

「彼女が『人形令嬢』と呼ばれていたことは知っていた。しかしそれは、と肯定的な意味だと思っていたからだ」

見目は…たしかに良かった。

けれど、彼女を知ればその意味は侮蔑の意味だと直ぐに気づいただろうに。

なにも、語らぬあの令嬢と向き合えば、ひと目で。

「私は、彼女を物言わぬ人形と思ったことはない」

父の言葉にリーヴェンスは意味がわからぬという顔をした。

「あれほど、よく喋る令嬢もいないと思っていた」

父は誰の話をしているのだろうか。
先程まで語っていたのは、リーヴェンスの元婚約者の事で…。

「無口だなんだというお前の前では言葉数が少なくなるだけだと思っていたのだが、まさか」

これは、…人形令嬢の話だろうか?

「彼女の声がお前にとは思いもしなかった」

王は哀れんだ瞳で、リーヴェンスを見ていた。

とはなんだ。
彼女は一度も口を開いたことはない。

「あの娘は生まれたときから実母に虐げられていた。声を出すな、笑うなと。

彼女が意思疎通できたのは、彼女の周りにいる妖精達と、時々顔を見せていた父親だけだった。

忙しくしていたこともあって侯爵が娘の異常に気づいた時にはもう遅かった。

あの娘は、人の声の出し方を覚えることなく成長した」

…何を言っているんだ。父は。

「彼女が発している言葉は、妖精の言語だった。
お前には届かない声だった」
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