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二人が居なくなった後

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王太子ソルダートは女を抱いていた。

甘えたように何時も微笑んでいた女は、する事をして終わればさっさと衣服を身にまとう。
いつものように、睦言を囁き合う事もない。

「おい、もう帰るのか」
「最近オーナーが時間に厳しいの。ごめんね。またよろしく」

投げキスを残して女はさっさと部屋を出ていった。


何かが違う。
ソルダートは違和感を感じ始めていた。


今までソルダートは優秀な王太子としてやって来た。
お膳立てされた書類に署名をするだけ。

本人の知らないソルダート発案とされる事業は多くある。
ソルダートの臣下たちが主の為に、主の仕事を請け負ってくれていた。
彼らは成果だけを主に献上していた。

しかし、何故か急にそれらが一切なくなったせいで、ソルダートは送られてくる大量の書類に追われた。
助けを求めても、「殿下の仕事です」と、今までの甘い対応が嘘のように厳しいものに変わった。

ソルダートを敬い、持て囃すこともしなくなった。

いつからだ。
ここ最近あったことは、聖職者に魅了魔法を解除してもらったこと。
元凶の平民二人を谷に落としたこと。
いや、あれは自ら勝手に落ちていった。

そのだったはず。



平民らの最期を思い出す。

平民の女は飛び込む前に言った。

「裏切り、が何の事かはわからないけど、私とシンリはだから別に口づけてもいいじゃない。
私、ソルと婚約なんてしてない。平民が王族と婚約できないとこくらい馬鹿な私にだってわかるよ」

「…」

婚約していない?
確かに、言われてみれば平民と婚約などできるわけもない。
王族の婚約者の条件は伯爵家以上の貴族令嬢なのだから。
ならば、なぜそう思い込んでいたのか。

「ソマリ、ソルダート殿下は魅了魔法の解除で、記憶に障害がでているだけだ。もう相手にしなくて良い」

シンリは手首を縛っていた縄を引き千切ると、ソマリを抱き上げて崖から飛んだ。
驚いたソルダートが止める間もなかった。


ただ、飛び込む瞬間、シンリの頭から獣のような耳が現れたような、気がした。


あの場に立ち会わせていた聖者殿は、あれから姿を見せていない。

落ちていった平民に対しての同情かなにかだろうが、酷く怯えていると聞いた。

まさか、仕返しを恐れているのだろうか。

あの高さから落ちれば生きてはいまい。

念の為、騎士を数名谷に向かわせたが、怪我をして戻ってきた。
谷の獣に負傷させられたという。

精鋭の騎士ですらそうなのだから、仮に奇跡的に無傷で谷に降りれたとして、元護衛騎士でも女を庇いながら生きながらえるのは不可能だ。

怯える必要などない。
怯える必要などー

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