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アルゼンは出しかけた言葉を飲み込んだ。

『聞いてない』

それは己の無能さを認める言葉だ。

今日の立太子の儀もパレードも、国民は知らされていた。
あれだけ多くの人間に知らされている事を、自分と側近だけが知らなかった。

情報収集能力がない、無能だと判断される。


そういえば、卒業式典で兄が妙な言い回しをしていた。

『第二王子アルゼンはニドリアラ公女との婚約を希望しない事を宣誓した!』

婚約破棄を宣言したはずなのに、アルゼンは婚約を希望しない、と。
彼女は『問題ない』と言って笑っていたが…。

「…私とあの女は…婚約していなかった?」

公国から公女が来ること。
彼女はこの国の王子と婚約することは聞かされていた。
自分が相手なのだと思っていた。

何故か。

『あのような女がアルゼン様の妻になど務められるはずがありません』
『他国の女が王妃に?ありえません』

側近たちがそう言っていたから、自分の妻になるのだと思っていた。

見かけた公女は、感じの悪い嫌な女だった。
だから彼らの言うように公女の悪態をついた。

思えば本人と面と向かって話し合ったことはない。
いつも誰かの言うニドリアラの情報を鵜呑みにしていた。
それを確かめることはしたか。

アルゼンは首を振った。
情報の発信元の特定や裏付け、そういった基本的な精査はしていない。
アルゼンは側近達を、取り巻く貴族たちを信頼していた。

しかし、彼らはもうアルゼンの側にはいない。
アルゼンの寮に飛び込んできた男も、いつの間にかいなくなっていた。

「公女を娶った者が…国王か、」

卒業式典で大見得を切った。
公女との婚約破棄。つまりそれは、自ら王にはならぬと宣言したのだ。

知らなかった。
だからアレは無効だ。

そう喚けば、王の資質なしと判断されるだろう。

八方塞がりだ。

王太子になれぬ王子に価値などない。
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