7 / 7
七
しおりを挟む
アルゼンは出しかけた言葉を飲み込んだ。
『聞いてない』
それは己の無能さを認める言葉だ。
今日の立太子の儀もパレードも、国民は知らされていた。
あれだけ多くの人間に知らされている事を、自分と側近だけが知らなかった。
情報収集能力がない、無能だと判断される。
そういえば、卒業式典で兄が妙な言い回しをしていた。
『第二王子アルゼンはニドリアラ公女との婚約を希望しない事を宣誓した!』
婚約破棄を宣言したはずなのに、アルゼンは婚約を希望しない、と。
彼女は『問題ない』と言って笑っていたが…。
「…私とあの女は…婚約していなかった?」
公国から公女が来ること。
彼女はこの国の王子と婚約することは聞かされていた。
自分が相手なのだと思っていた。
何故か。
『あのような女がアルゼン様の妻になど務められるはずがありません』
『他国の女が王妃に?ありえません』
側近たちがそう言っていたから、自分の妻になるのだと思っていた。
見かけた公女は、感じの悪い嫌な女だった。
だから彼らの言うように公女の悪態をついた。
思えば本人と面と向かって話し合ったことはない。
いつも誰かの言うニドリアラの情報を鵜呑みにしていた。
それを確かめることはしたか。
アルゼンは首を振った。
情報の発信元の特定や裏付け、そういった基本的な精査はしていない。
アルゼンは側近達を、取り巻く貴族たちを信頼していた。
しかし、彼らはもうアルゼンの側にはいない。
アルゼンの寮に飛び込んできた男も、いつの間にかいなくなっていた。
「公女を娶った者が…国王か、」
卒業式典で大見得を切った。
公女との婚約破棄。つまりそれは、自ら王にはならぬと宣言したのだ。
知らなかった。
だからアレは無効だ。
そう喚けば、王の資質なしと判断されるだろう。
八方塞がりだ。
王太子になれぬ王子に価値などない。
『聞いてない』
それは己の無能さを認める言葉だ。
今日の立太子の儀もパレードも、国民は知らされていた。
あれだけ多くの人間に知らされている事を、自分と側近だけが知らなかった。
情報収集能力がない、無能だと判断される。
そういえば、卒業式典で兄が妙な言い回しをしていた。
『第二王子アルゼンはニドリアラ公女との婚約を希望しない事を宣誓した!』
婚約破棄を宣言したはずなのに、アルゼンは婚約を希望しない、と。
彼女は『問題ない』と言って笑っていたが…。
「…私とあの女は…婚約していなかった?」
公国から公女が来ること。
彼女はこの国の王子と婚約することは聞かされていた。
自分が相手なのだと思っていた。
何故か。
『あのような女がアルゼン様の妻になど務められるはずがありません』
『他国の女が王妃に?ありえません』
側近たちがそう言っていたから、自分の妻になるのだと思っていた。
見かけた公女は、感じの悪い嫌な女だった。
だから彼らの言うように公女の悪態をついた。
思えば本人と面と向かって話し合ったことはない。
いつも誰かの言うニドリアラの情報を鵜呑みにしていた。
それを確かめることはしたか。
アルゼンは首を振った。
情報の発信元の特定や裏付け、そういった基本的な精査はしていない。
アルゼンは側近達を、取り巻く貴族たちを信頼していた。
しかし、彼らはもうアルゼンの側にはいない。
アルゼンの寮に飛び込んできた男も、いつの間にかいなくなっていた。
「公女を娶った者が…国王か、」
卒業式典で大見得を切った。
公女との婚約破棄。つまりそれは、自ら王にはならぬと宣言したのだ。
知らなかった。
だからアレは無効だ。
そう喚けば、王の資質なしと判断されるだろう。
八方塞がりだ。
王太子になれぬ王子に価値などない。
105
お気に入りに追加
671
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
(完結)伯爵家嫡男様、あなたの相手はお姉様ではなく私です
青空一夏
恋愛
私はティベリア・ウォーク。ウォーク公爵家の次女で、私にはすごい美貌のお姉様がいる。妖艶な体つきに色っぽくて綺麗な顔立ち。髪は淡いピンクで瞳は鮮やかなグリーン。
目の覚めるようなお姉様の容姿に比べて私の身体は小柄で華奢だ。髪も瞳もありふれたブラウンだし、鼻の頭にはそばかすがたくさん。それでも絵を描くことだけは大好きで、家族は私の絵の才能をとても高く評価してくれていた。
私とお姉様は少しも似ていないけれど仲良しだし、私はお姉様が大好きなの。
ある日、お姉様よりも早く私に婚約者ができた。相手はエルズバー伯爵家を継ぐ予定の嫡男ワイアット様。初めての顔あわせの時のこと。初めは好印象だったワイアット様だけれど、お姉様が途中で同席したらお姉様の顔ばかりをチラチラ見てお姉様にばかり話しかける。まるで私が見えなくなってしまったみたい。
あなたの婚約相手は私なんですけど? 不安になるのを堪えて我慢していたわ。でも、お姉様も曖昧な態度をとり続けて少しもワイアット様を注意してくださらない。
(お姉様は味方だと思っていたのに。もしかしたら敵なの? なぜワイアット様を注意してくれないの? お母様もお父様もどうして笑っているの?)
途中、タグの変更や追加の可能性があります。ファンタジーラブコメディー。
※異世界の物語です。ゆるふわ設定。ご都合主義です。この小説独自の解釈でのファンタジー世界の生き物が出てくる場合があります。他の小説とは異なった性質をもっている場合がありますのでご了承くださいませ。
追放された令嬢は愛し子になりました。
豆狸
恋愛
「婚約破棄した上に冤罪で追放して悪かった! だが私は魅了から解放された。そなたを王妃に迎えよう。だから国へ戻ってきて助けてくれ!」
「……国王陛下が頭を下げてはいけませんわ。どうかお顔を上げてください」
「おお!」
顔を上げた元婚約者の頬に、私は全体重をかけた右の拳を叩き込んだ。
なろう様でも公開中です。
とある公爵令嬢の復讐劇~婚約破棄の代償は高いですよ?~
tartan321
恋愛
「王子様、婚約破棄するのですか?ええ、私は大丈夫ですよ。ですが……覚悟はできているんですね?」
私はちゃんと忠告しました。だから、悪くないもん!復讐します!
婚約者に捨てられたので殺される前に言葉も交わしたことのない人と逃げることにしました。
四折 柊
恋愛
家のために王太子の婚約者として生きてきた日々。ところがその婚約者に捨てられて家族には死を受け入れろと毒を渡される。そんな私にここから逃げようと手を差し伸べてくれたのは言葉も交わしたことのない人でした。 ※「婚約者に捨てられて死を待つ令嬢を連れて逃げた男の話」の対になる女性目線のお話です。こちらを読んで頂ければより分かりやすいと思います。
「本当の自分になりたい」って婚約破棄しましたよね?今さら婚約し直すと思っているんですか?
水垣するめ
恋愛
「本当の自分を見て欲しい」と言って、ジョン王子はシャロンとの婚約を解消した。
王族としての務めを果たさずにそんなことを言い放ったジョン王子にシャロンは失望し、婚約解消を受け入れる。
しかし、ジョン王子はすぐに後悔することになる。
王妃教育を受けてきたシャロンは非の打ち所がない完璧な人物だったのだ。
ジョン王子はすぐに後悔して「婚約し直してくれ!」と頼むが、当然シャロンは受け入れるはずがなく……。
婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~
みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。
全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。
それをあざ笑う人々。
そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。
婚約破棄されたのでグルメ旅に出ます。後悔したって知りませんと言いましたよ、王子様。
みらいつりびと
恋愛
「汚らわしい魔女め! 即刻王宮から出て行け! おまえとの婚約は破棄する!」
月光と魔族の返り血を浴びているわたしに、ルカ王子が罵声を浴びせかけます。
王国の第二王子から婚約を破棄された伯爵令嬢の復讐の物語。
愛は、これから
豆狸
恋愛
呪いだよ、とクリサフィスは呟くように言った。
「カシア嬢は呪われていたんだ」
「莫迦な。ヴァトラフォス大神官が違うと言っていたんだぞ? わかった。呪いは呪いでもあの女がフィズィを呪って返された呪いなんだろう?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる