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「ニドリアラ様」
「グレアン殿下。敬称は不要です」

「…リアラ」
「っ愛称を呼ぶまでは許してません」

囁くように愛称を呼ぶこの男は確信犯なのだろう。
ニドリアラのつれない対応でも微笑むだけで気分を害した様子はない。

グレアンの立太子の儀式は終え、城下へ王太子とその婚約者の発表のパレードを行うとの事だった。
屋根のない豪華な馬車に乗り込み、城下の大通りまで移動していた。

グレアンから視線を逸らしても熱くなる顔を止めることはできない。

「随分と良い趣味をお持ちですのね。護衛騎士などと偽って」

つんと可愛げのない態度が出てしまう。
今まで騙されていたのだからこの反応も仕方がないと思う。


ニドリアラが王国にやってきた際、婚約者の候補は二人いると聞いた。
しかし、第一王子も第二王子も姿を見せなかった。
支援を受ける国からの公女に随分な扱いだと思ったものだけれど。

気を利かせた王妃が茶会を開いても、二人の王子の姿は見えず、一人待ちぼうけを食らわされたのだ。

王国側から用意された護衛騎士がご一緒しても良いですか、と声をかけてきたのだけれど、その騎士こそが第一王子だったと言うことだ。


「貴方を守り通すという意味でも、生涯貴方の護衛だと自負しております」

「…口が減りませんのね」

ずっと明後日の方角を見つめたままニドリアラはグレアンからの視線から逃げていた。
ニドリアラは二人の婚約者候補の悪態をついていた。
侍女や護衛の前では外行きの公女ではない、年相応の令嬢のように感情豊かに婚約者候補を貶していたのだ。

今にしてみれば、本人を前にしてかなり罵倒した。

居たたまれなさも相まって、グレアンの顔がまともに見れない。

「…言い訳が許されるなら」

国王夫妻はアルゼンを後継者にしたかった事。
二人が望むならそのように計らった結果だという。

「しかし、アルゼンは貴方を拒否し、王位を諦めた。ならば私が貴方を望んでも構わないですよね」
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