元婚約者は戻らない

基本二度寝

文字の大きさ
上 下
1 / 3

貴族令嬢はもう居ない

しおりを挟む
ナユリーナとは気が合わなかった、という理由だけで婚約が破棄されたのは侯爵が息子カルバンに甘かったからだった。

元々、カルバンが伯爵家のナユリーナに一目惚れをして、婚約を叶えたのも侯爵だった。


今度はカルバンが、気の強いナユリーナを大人しく従わせたいと望み、婚約破棄を思いついた。

カルバンは理由を告ず、人前で盛大に叫んだ。
「お前のような女とは婚約を破棄する」と。

周囲は何事かと思ったに違いない。

ナユリーナに理由を問われても、「自分の胸に聞いてみろ」と言ってその場を凌ぐつもりだった。
周囲に勝手な憶測をさせ、彼女に瑕疵があると思わせる目的だったからだ。

しかし、彼女はただ一言「かしこまりました」とだけ言い残して去った。

気の強さか、貴族令嬢の矜持か。

後は当主同士で話し合い、カルバンが出向くことなく全ては終わった。


それから一年。
伯爵家のナユリーナに新たな縁談が成立した話は聞かない。

(そろそろ、伯爵家にナユリーナを愛人にする話を持ちかけても構わないか)

愛人、と言っても今のカルバンに妻も新たな婚約者もない。

あの公然の場での婚約破棄宣言で、カルバンにも問題があると貴族間で遠巻きにされている自覚はなかった。



「…ナユリーナは居ない?」

カルバンが伯爵家を訪れると、当主が対応した。
呼び戻せ、と言っても首を左右に振られる。

「既に我が家から除籍していますので」
「除籍!?」

カルバンは立ち上がるほどの驚きを見せた。

「婚約破棄された令嬢など誰も見向きもしないのだから、自由にさせろと言いましてな」

「だからといって…お、親として酷いのではないか!」

「あのような面前での婚約破棄をした貴方がそれをおっしゃいますか」

伯爵の言葉に、カルバンの頭から汗が流れた。
元凶はカルバンなのだ。

「呼び戻せ、私が拾ってやる」

伯爵は再び首を横に振る。

「貴族は窮屈なのだそうです。あの子には平民として自由に生きるほうが性に合う、と親からみても思うのです」

「そんなはずがない!平民になど!」

カルバンは礼儀もなく伯爵家を飛び出した。

貴族令嬢が城下でまともな暮らしをできるはずがない。
娼館に売られたかと焦って、人探しのために冒険者ギルドに入った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

言い訳は結構ですよ? 全て見ていましたから。

紗綺
恋愛
私の婚約者は別の女性を好いている。 学園内のこととはいえ、複数の男性を侍らす女性の取り巻きになるなんて名が泣いているわよ? 婚約は破棄します。これは両家でもう決まったことですから。 邪魔な婚約者をサクッと婚約破棄して、かねてから用意していた相手と婚約を結びます。 新しい婚約者は私にとって理想の相手。 私の邪魔をしないという点が素晴らしい。 でもべた惚れしてたとか聞いてないわ。 都合の良い相手でいいなんて……、おかしな人ね。 ◆本編 5話  ◆番外編 2話  番外編1話はちょっと暗めのお話です。 入学初日の婚約破棄~の原型はこんな感じでした。 もったいないのでこちらも投稿してしまいます。 また少し違う男装(?)令嬢を楽しんでもらえたら嬉しいです。

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

【完結】誠意を見せることのなかった彼

野村にれ
恋愛
婚約者を愛していた侯爵令嬢。しかし、結婚できないと婚約を白紙にされてしまう。 無気力になってしまった彼女は消えた。 婚約者だった伯爵令息は、新たな愛を見付けたとされるが、それは新たな愛なのか?

わたしを捨てた騎士様の末路

夜桜
恋愛
 令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。  ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。 ※連載

【完結】なぜ、お前じゃなくて義妹なんだ!と言われたので

yanako
恋愛
なぜ、お前じゃなくて義妹なんだ!と言われたので

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

【短編】捨てられた公爵令嬢ですが今さら謝られても「もう遅い」

みねバイヤーン
恋愛
「すまなかった、ヤシュナ。この通りだ、どうか王都に戻って助けてくれないか」 ザイード第一王子が、婚約破棄して捨てた公爵家令嬢ヤシュナに深々と頭を垂れた。 「お断りします。あなた方が私に対して行った数々の仕打ち、決して許すことはありません。今さら謝ったところで、もう遅い。ばーーーーーか」 王家と四大公爵の子女は、王国を守る御神体を毎日清める義務がある。ところが聖女ベルが現れたときから、朝の清めはヤシュナと弟のカルルクのみが行なっている。務めを果たさず、自分を使い潰す気の王家にヤシュナは切れた。王家に対するざまぁの準備は着々と進んでいる。

処理中です...