なにをおっしゃいますやら

基本二度寝

文字の大きさ
上 下
5 / 6

しおりを挟む
第一王子の側近だったクオーレは、学園最終日自身の最後の役目、王子の婚約者だったエリクシアを卒業の式典会場から自宅へ送り届け、その任を終えた。

彼女から礼とこれまでの労いを頂き、実家へ帰った。
クオーレは両親と弟に最後の挨拶だけして、領地に戻るつもりだったが、母親に望まれ生家で家族との最後の日を過ごした。


クオーレは父親から、弟に家督を譲る事を告げられた時素直にそれに応じた。

クオーレは王子の側近になっていた間、家の金を使い込んでいた。
王子が個人の予算を使い込み、その補填の為に家の金に手をつけた。
上手く誤魔化していたがやはり父親には気づかれて、問いただされても金の流れについては口を割っていない。

それでも知られていたのだろう、何度も第一王子の側近など辞めてしまえと言われるようになっていた。

それからは横領は出来なくなった代わりに、父親に頭を下げて借金を重ねた。
何も聞かずに金を渡してくれた父親には頭が上がらない。

家督は弟に、そう言われて当然だと思っている。


第一王子から離れなかったのも、借金も、クオーレの我儘だから。



生家を去る朝。
借金を踏み倒すつもりはないことを宣言したが、父親は首を振った。

「借金は、必ず返します」
「…お前に小遣いを渡しただけだ。気にするな」

「いえ…それには額があまりにも」

「必要ない」
「そういうわけには」

「大丈夫よ。必要な費用として侯爵家から渡していたから」

昨日、自宅に送り届けた筈の令嬢の声がクオーレの後ろから聞こえた。

クオーレが振り返れば、ドレス姿の彼女ではなく、動きやすそうな格好でそこに居た。

両耳には、何時か王子からの贈り物と称して渡した装飾が揺れている。


「エリクシア様、何故ここに…?」

「うん?クオーレについていくつもりだったからだけど?聞いてないの?」

ばっと父親に目線を戻せば、ため息を吐く姿があった。

「お前に渡していた金はエリクシア様から渡されたものだ。馬鹿な第一王子が婚約者へ使うべき予算を他所の女に使い込んでいた補填だったのだろう?
最初はお前が自腹切ってエリクシア様の誕生日に贈り物をしていたと聞いた。
…第一王子ごときのためにそこまでしなくてもよかったのだ」

この国では婚約者に贈り物をするのは常識だった。
下働きに全部任せて贈らせることも珍しくはなかった。
第一王子の側近として、エリクシア様の対応担当だったクオーレはその予算が無いことに頭を抱え、自腹を切ったのが始まりだった。

「だが、そう続くわけもない。一介の仕官の給料などしれている。だから家の金に手を付けたのだろう?」

夜会に出席する度に、贈り物をせねばならない。
毎回、装飾品を贈り続けていた。
そうなれば、予算の都合で装飾の質もだんだん下がっていく。

「エリクシア様はそれに気づかれ、調べ、我が家に報告にこられたのだ…『私の婚約者が息子に迷惑をかけているようだ』と。…気づいてやれなくてすまなかった」

父は親の顔をして、クオーレの肩を叩く。

いつでも顔を見せなさい。と。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結]本当にバカね

シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。 この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。 貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。 入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。 私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。

「大嫌い」と結婚直前に婚約者に言われた私。

狼狼3
恋愛
婚約してから数年。 後少しで結婚というときに、婚約者から呼び出されて言われたことは 「大嫌い」だった。

[完結]婚約破棄したいので愛など今更、結構です

シマ
恋愛
私はリリーナ・アインシュタインは、皇太子の婚約者ですが、皇太子アイザック様は他にもお好きな方がいるようです。 人前でキスするくらいお好きな様ですし、婚約破棄して頂けますか? え?勘違い?私の事を愛してる?そんなの今更、結構です。

彼女は彼の運命の人

豆狸
恋愛
「デホタに謝ってくれ、エマ」 「なにをでしょう?」 「この数ヶ月、デホタに嫌がらせをしていたことだ」 「謝ってくだされば、アタシは恨んだりしません」 「デホタは優しいな」 「私がデホタ様に嫌がらせをしてたんですって。あなた、知っていた?」 「存じませんでしたが、それは不可能でしょう」

[完結]要らないと言ったから

シマ
恋愛
要らないと言ったから捨てました 私の全てを 若干ホラー

「つまらない女」を捨ててやったつもりの王子様

七辻ゆゆ
恋愛
「父上! 俺は、あんなつまらない女とは結婚できません!」 婚約は解消になった。相手側からも、王子との相性を不安視して、解消の打診が行われていたのである。 王子はまだ「選ばれなかった」ことに気づいていない。

比べないでください

わらびもち
恋愛
「ビクトリアはこうだった」 「ビクトリアならそんなことは言わない」  前の婚約者、ビクトリア様と比べて私のことを否定する王太子殿下。  もう、うんざりです。  そんなにビクトリア様がいいなら私と婚約解消なさってください――――……  

婚約者は王女殿下のほうがお好きなようなので、私はお手紙を書くことにしました。

豆狸
恋愛
「リュドミーラ嬢、お前との婚約解消するってよ」 なろう様でも公開中です。

処理中です...