選択を間違えた男

基本二度寝

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「侯爵家と伯爵家ではその差は天と地ほどにある。当然理解しているはずだな?」

伯爵家の一人息子、エンリケは父である当主から叱責を受けている。
同じような言葉をエンリケは元婚約者にぶつけた事があるなと、思考を飛ばした。

侯爵令嬢に惚れられ、当時婚約者だった子爵令嬢に放った言葉が「侯爵家と子爵家では雲泥の差がある。婚約者にと望まれたならば、どちらを選ぶべきかわかるだろう?」だった。

「…これが、お前が侯爵令嬢に用意してやった衣装の明細だ」

エンリケは差し出されたそれを見て、目を擦った。

「…詐欺では?零が二つほど多いのですが」
「店側に確認した。間違いはないとのことだ」
「いやしかし…これは我が伯爵家の一月の税収とほぼ同額」

子爵は冊子を取り出し広げた。
さまざまな女性用のドレスが掲載されたその冊子に、エンリケが侯爵令嬢に贈った衣装によく似た物があった。

ドレスのデザイナーの名前と、素材の一覧、納期等の詳細が記載されている場所に印が付いてある。
価格の部分に引かれた下線は、先程の明細とよく似た金額が印字されていた。

「…嘘でしょう?」
「…妻にも聞いた。衣装がこんなにするものかと。
直接店に金額の確認に行ったことも話した。そうしたら、…恥ずかしくてもう社交に出れないと泣かれた…」

「は?」

「女性の衣装一つもピンキリらしいが…有名なそのデザイナードレスの価値は女性なら皆知っているものらしい」

そう言われても、男性であるエンリケも子爵も知らなかった。
知らなかったから確認したのだが。

「…無知は恥。人の口に戸は建てられぬ」

「それは、仕方ない事ではないですか。実際女物衣装の価格なんて知らなかったから確認しただけで…」

「そうか、そうだな。お前は馬を好いていたな。例えば、お前が高級馬を適正価格で買い、その明細を見た母が『馬がこんなに高いわけがない!詐欺だ』と馬主に乗り込んで行ったと聞けば、お前はどう思う?」

「っそんな恥ずかしい真似!!馬も品種によって価格に差があるんです!馬好きなら当然知っている事で、そんな…馬主に価格確認に行くなんて話が仲間に知られたら…っ!」

エンリケははたと気づいた。

「社交界ではそういう話のネタは

人を蹴落とす事が当たり前の世界。
人の不幸は蜜の味。

「…初めに妻に確認すればよかった私のミスではある。だが…」

話の論点はそこではなかった。

「我が家では、侯爵令嬢を迎えるだけの財力はない」

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