選択を間違えた男

出席した夜会で、かつての婚約者をみつけた。
向こうは隣の男に話しかけていて此方に気づいてはいない。

「ほら、あそこ。子爵令嬢のあの方、伯爵家の子息との婚約破棄されたっていう」
「あら?でも彼女、今侯爵家の次男と一緒にいらっしゃるけど」
「新たな縁を結ばれたようよ」

後ろにいるご婦人達はひそひそと元婚約者の話をしていた。
話に夢中で、その伯爵家の子息が側にいる事には気づいていないらしい。

「そうなのね。だからかしら」
「ええ、だからじゃないかしら」

「「とてもお美しくなられて」」

そうなのだ。彼女は綺麗になった。
顔の造作が変わったわけではない。
表情が変わったのだ。

自分と婚約していた時とは全く違う。
社交辞令ではない笑みを、惜しみなく連れの男に向けている。

「新しい婚約者の方に愛されているのね」
「女は愛されたら綺麗になると言いますしね?」
「あら、それは実体験を含めた遠回しの惚気なのかしら」

婦人たちの興味は別の話題へ移った。

まだそこに留まっているのは自身だけ。

ー愛されたら…。

自分も彼女を愛していたら結末は違っていたのだろうか。

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